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あー、あれ、聴きたいな。
[仕事帰りに時折駅前で見かけた演奏のことが思い出されて、この街の古ぼけた駅へ向かってみることに*した*]
……、「たからもの」…が、仕舞っている記憶なら…、
無理に取り出そうとするのって、辛いよね…
[そう息も絶え絶えに告げるのは、同情でも気遣いでもなく、嘘偽りのない素直な気持ち。
自分が見たあの夢は、探そうとして見つけたのではない。
仕舞っていたのはきっと、思い出して支えにするには生きていくには苦しかったから。
夜の海に映る月が、どんなに手を伸ばしても掴むことが出来ないように。
もう二度と、得られないものだから。]
『モミジちゃん....!』
[なぜ、胸の奥。
水面に拡がる波紋。
夢だと、幻だと、仕舞おうとした記憶が何かに共鳴するように。
心の雪を溶かして、響く。**]
[溜めていた心の内を吐き出すかのような叫び。
八つ当たりも多分に含まれていたようだが…兎に同情する余地は無く。
男は黙って事の成り行きを見詰めた]
─────
[やがて、風が緩やかな動きを辿り止み、灰色の空が凍れる涙を止めた]
[その空から白が一つ落ちてくる]
……兎。
[雪のようにふわふわなそれは器用に着地し、最初と同じく軽い調子で声をかけてきた。
ただ見るだけならば愛らしいとも思える動き。
それを何の感慨も抱かずに眺め、兎の手の中に『鍵』と『螺子』が現れるのを見た。
兎の手で『鍵』と『螺子』が動き、時計の鐘が鳴り響く]
──…12
[正しい数の音。
どうやら、兎の言う『時計』が直ったらしい]
[兎が誰かに語る声はただ聞くに留まった。
男に向けた言葉では無いと理解したために。
ただ、その言葉は男の意識にもしっかりと滑り込んできた]
…終いか。
最後まで適当だな。
[多分、と曖昧なことを言う兎に小さく紡ぎ、僅かばかり口端を持ち上げる。
虹色と空色の光に包まれた何かが砕けるおと。
雲間から差し込む柔らかい日差しが男の身にも降り注いだ。
空間の狭間は、もう、無い*]
[空から降ってきた何かが白兎の声で喋る。
相変わらず一方的で、機械仕掛けなんじゃないかとすら思える]
もっとゆっくり喋ってよー。
ニンジンでも食べる?
[距離がある兎の仕草は認識出来ず、ただ何かが壊れる音が聞こえた]
いらないよっ!
[自分で、キラッとした声音で言う。
足元を見ながらたどたどしく歩いていく道が、いつもの世界に戻ったことを認識するのは、喧騒に*包まれたとき*]
[いつの間にか、狭間に居る人数の方が多くなっている。
結果、取り残された形のバクが、拳を握りしめて空に向かって怒鳴った]
[その意味は、やっぱり半分以上掴めなかったけれど]
もしかして…彼が最後の、鍵、かな?
[なんだかそんな気がして、息を呑むように成り行きを見守る]
[現れた兎は、相変わらず軽い。けれど、そのふわふわの手に集まる光は暖かいいろで、光から産まれた虹と空の色が、見えない時計の蓋を開いて、その螺子を巻いた]
はは……ほんと、突拍子も無いファンタジーだな。
[鐘の音が12回。そしてなんだかドヤ顔に見える兎の言葉に、溜め息を落とす]
言いたい事は分かるけど、唐突な上に説明不足だよ。
[このまま小説にしたら、きっと編集者からダメ出しの嵐だ。でも多分、兎はこっちの言う事等気にしてもいないのだろう]
[やがて、何かが砕ける音がして、どこかぼんやりとしていた「感覚」が戻ったのを、日射しの暖かさから知る]
戻った…?
[立っていたベンチの脇から、背もたれに手を伸ばすと、触れる感触が返る。片手で、ぐ、と、それを握り、少しかがみ込んで…]
……モミジ、ちゃん。
[少し迷ってから、口にしたのは、思い出したあの日の呼び名]
ごめん、遅くなって。
でも......逢えて良かった。
[彼女は多分覚えていないだろう、と、そう思うけれど。
説明するより何より、ただそう、告げたかった*]
……見つかった…
[止まった雪の代わりなのかどうなのか。
空から振ってきた兎の調子は最初と何も変わらない。
熱で長く目を開けて居られなかったから、雪が止んだことは知らず聞こえた言葉を確認するように呟いた。]
───…じゃ、あ…
[兎の言うことが本当なら、これでみんな。
元居た場所に戻れるということ。
回らない頭でもそれくらいは理解できて。
けれど、霞が、肝心な元居た場所を曖昧に揺らがせる。]
( ───……じゃあ、
夢は、どこから……? )
[時計の鐘が鳴っている。
頬に当たる光の感触。
子供の頃と同じよう。
境界線がわからない。]
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