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『…クリスマス、あれね
イエスの誕生日じゃないんだって』
[しばし考え込んでいると、控えめなBGMに紛れ、そんな言葉が聞こえた。
へえ。初耳だ。
おれと三大宗教の接点は、世界史の知識が少々と、あとはせいぜい幼稚園が寺だったくらいのものだ。
それで正解は何なのだろう。
耳を澄ますが、その続きは聞こえてこなかった。
答えのない謎かけにでも遭った気分。]
[それにしても、そうか、もうそんな時期か。
師走。センセイが走る月。
塾講師をしているおれみたいな人間にとっては、実にぴったりの言葉だ。
センター試験まであと1ヶ月弱、受験を目前にした生徒たちのための集中講義や冬期講習の準備で大わらわだ。うちみたいな個人経営の塾でさえそうなんだから、大手のところはもっとだろう。]
[今日だって、夕からは仕事だ。
気づけば冬の日はもう赤みがかり始めている。
軽く腹ごしらえをしておこうと、ウェイトレスを呼び止める。]
ホットサンド、あります?
[店内に漂う微かな香りの誘惑は強力だった。]
[ベーコンレタストマトに卵たっぷりタルタルを挟んだBLTEサンドは人気メニューのひとつ。もちろん、卵抜きもあるけれど
大抵は作り置きのタルタルソースも、我侭な客のために玉葱抜きでつくりなおされる]
……ん、おいし
[半分を一息に食べてから、寒さで強張っていた肩からやっと少しだけ、力を抜いた]
[はじめは純粋に、惹かれあった。
ホットミルクのように、白く、すべてを保有してしまうあたたかさ。
ココアの、じんわりと広がる甘さ。
それらを共有した時間を過ごした。
ミルクとココアで、珈琲の黒と苦さを隠して]
[お互いの視線は、お互いをみているようで、
その実お互いをみていなかった。
彼の優しい視線に映り込んでいるのは私だけではなかった。
わたしが踏み込んではいけない、誰かが常に、そこにいた。
彼は、私が気づいていないと思ったのかもしれない。
はじめは、わからなかった。
それはきっと、彼の優しさ。作った表情。
ミルクとココアで隠したコーヒーがわかるまで、ずいぶんと時間がかかった]
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