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[食堂車を通り抜けて……幾分静かになっただろうか。風さらしの連結部分を抜けて]
……二章目はadageo - accelerando というところか、な。
[付け加えた演奏記号は、風に乗って後方へ消えていく]
…?
[小さな叫びを聞きとがめたが、
言葉が続かなければ、それ以上追及することなく、]
うーん、どうかしら?
不審者と間違えられてもコトだし…。
…お任せするわ。気をつけて、ね。
ええ、フリルちゃんじゃなくて、小柄な女の子。
酔っぱらって髭わしゃわしゃしてたわ。
[思い出し笑いをくすくすと。]
それでは、また後で*
[自室に戻れば、先刻と別の小さな者が自分を待っているだろう。開ける前から、わかる、送り主]
……小さい、は甚だ余計。
[それでも、つい、マトリョーシカを開けてしまう。中に入った手紙、目を通す前から内容は想像できたが]
五月蠅いよ。
[なのに、読んでしまった。その自分の行為自体に腹が立ってきて、くしゃ、と手紙を丸める]
大体。
ワタシが守ってるのはロマネスの秘宝じゃない。
[それに興味があるのは、本当だけれど。興味があるのは、彼女がそう、言ったからで]
悪魔の楽譜なんて、本当かどうかわからないし。
[演奏して聞かせて、だなんて、言われなければ――
遠い昔の約束だから。まだ幼いころの約束だから。だから反故にしてもよい、と思えるほど……自分は他に、何も持っていないから。興味を持ち続けていないといけないと思うけれど]
でも、あなたより大事なものは多分ないよ。「アナスターシェ」**
そうですね。
確かに、出て行ったばかりの人の部屋を使う理由を、上手に説明出来る理由が思いつきません。
[不審者という言葉に、くすりと笑って]
酔っぱらって、髭を? はは、なかなか盛り上がったようですね。結構なことです。
[くすくすと楽しげな笑い声に、微笑んで。目を閉じると深呼吸。音のしない動作は、ほとんど伝わらなかっただろうけれど]
ええ、では、また後で。
[ゆるりとした口調で返す]
[アルマと二人で「擬似空中浮遊」、などと戯れつつ、少女を担いで客室へと運び届ける。
とぼけた様子で、しっかりと車内を走り回る衛兵の姿は把握している。
その後、アルマより一足先に自分のコンパートメントへと引き返し、大きな鞄を漁って、何かを「フロシキ」に包む。
と、今度は再び食堂車を通って、一等車両へと抜けた。
目指すコンパートメントの主は、既に食堂車から引き上げていることだろう。]
ムシュ・レイヨ?
[と、扉を叩いた。]**
残念ですがMonsieur、私もこの食堂での出会いを
文字に残すべく部屋に戻ろうと思うのです。
ですが、もしMonsieurがご興味がおありでしたら、後ほど客車を
お尋ね戴ければ歓迎いたしますよ。
…ああ、申し出が遅れてしまいました。私はレイヨ・マルヤマー。
宜しければ、この旅の道連れになってくださるかもしれない
あなた様のお名前をお伺いしても?
[軽く首を傾げて仏語を話す男へ問いかけ追えると、
万年筆に蓋をして、手帳をそれとともに懐へと仕舞い込んで席を立ちあがる。
残していった挨拶は非常に紳士的なものだった]
−食堂車→ピェルヴィクラース・コンパートメント−
…まったく、騒がしい場所だ。
趣味はいい場所なのに、もったいない。
[海の外の人間は、島国の人間からすれば酷く騒がしかったらしい。
コンパートメントに到着すれば、水差しから杯へと水を満たし、
それをゆっくりと飲みこむと寝台に腰かけ目を瞑る。眠るわけではない]
…。
[杯を置くと手帳に書き込む葡萄黒]
『旅は道連れ世は情け。
甘し飯、甘し酒、甘し話に満ち足りて
女帝は麗しき芸術の都に背を向ける』
[そこまで書き込んだ手帳を閉じる。
またしばらく目を瞑ると、扉を叩く音がした。
ゆっくりと破璃の奥の瞳を開いて、寝台から立ち上がる。
魚眼レンズと眼鏡のレンズ越しに映るのは先程の相席の男。
懐に在るものと、それから────を確認してから]
ようこそ、Monsieur。
[扉を開いた先にいる男を迎え入れた*]
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