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[振られた腕がカウンター気味に入り、軽い体は壁近くまで飛ばされ、無様に床に転がった。
頬に激しい痛みが走り、口元からは鮮やかな紅が生まれる]
……お前がプレーチェを殺した。
[ずれたサングラスをかけ直し、それ越しに憎悪に満ちた視線で三河屋を睨みつけた**]
[レンとダンケの対峙には気が付かないまま、走り。ポルテの部屋に辿り着くと、その戸をノックした]
ポルテさん。起きてますか?
ポルテさん、……
……すみません、入りますよ!
[呼びかけに応える声はない。勢い良く戸を開き]
……う、
[目に染みるような空気に眉をひそめた。床に倒れたポルテの姿を見て、駆け寄ろうとしかけたが、思い立ったように窓際へと向かい、すぐさま窓を開け放ち]
は、
[反射的にか止めていた呼吸を再開する。流れ込んでくる湿り切った空気。激しく入り込んでくる雨が髪や顔や服にかかり、床を濡らす。数秒、暝目してから]
[青年が詰まる息を吐き出そうとしたとき、
宙を舞っていた『其れ』は落ちてきた。]
――…
レンくん?! きみ…
[驚きの声を、上げる。
ふわり、床へと落ちたのは、緑色の帽子。]
[驚きは、青年の呼吸をすこし落ち着かせる。
激さぬよう、押し殺した声を絞り出した。]
……
そのせりふを、吐きたくて。
プレーチェを殺したのかい。
[あくまで瞳を隠す「憎悪」の主を見詰めた。]
何だよ。
……今度は僕を殺すのか?
[口元を手の甲で拭う。
朱色に染まったその手はポケットへと入れられ、取り出されたのは[殺虫スプレー]]
[三河屋が動けば
その動きに合わせ牽制ようにスプレーを向けたまま]
僕がプレーチェを?
台詞がどうしたって。
貴方は、自分が何を言ってるのかわかってるの?
[振り向き、室内を一望して、動き続ける加湿器に目を留めた。歩み寄ってその電源を切る。窓は開け放しにし、ポルテに近付いていく。傍らに膝をつき、首に揃えた指先を触れさせて、ゆっくりと首を横に振り]
……お休み、なさい。
五人、……
[目が開かれていたなら閉じさせた後で、独りごち]
……?
[ふと、懐から覗くそれに気が付いた。そっと抜き取り、確認する。紙切れが挟まれた警察手帳]
…?! !
[小柄なレンが取り出すスプレー。
ラベルは握るてのひらで見えない――
青年は、ぎくりと身を硬くする。]
ズ、…
[自身より体格も腕力も劣るはずのレンの声が、
抑揚が無くひどく得体のしれないものと響いて。]
ズイハラ…さん!! !
[レンの言葉そのものは耳に入らぬ態で、
喉を震わせ――引攣る声でズイハラの名を呼んだ。]
逃げてください――――
逃げて !! !
…どっちでも、よくなってきちゃうだろ。
[乾かぬ涙。
哀しみは、「怒り」を演出する薬のせいでなく]
ああ、動悸がしてきたよ…
逃げる?
逃げるってどこへだよ。
ビセさんは逃げようとして、死んだ。
お姉さんは立ち向かおうとして、死んだ。
みんな殺されるんだ。貴方に。
[紙切れにある内容を読むと、眉を下げ、目を細め]
……受け取りましたよ。
確かに……
[語りかけるように言ってから紙切れを四つに折り畳み、胸ポケットに入れた。事切れたポルテの体にシーツをかける。窓を閉め、部屋を後にし、廊下を進んで]
……レン。ダンケさん。
ポルテさんが……
[プレーチェの部屋の辺りまで戻り、二人にポルテの死を告げようとして――異様な状況に気が付いた]
……何が、
[レンの姿、緊迫した雰囲気、それらについて呑み込めないままに呟き。逃げて、というダンケの声に]
何が、あった?
[その通りに逃げようとはしないまま、低く口にした。レンが持つスプレーにはどこか見覚えがあった。
二人に、順に視線を向けて*]
[スプレーを構えたまま、ゆっくりと後退り]
ゲンちゃん!
三河屋が殺人犯だ!
助けて、殺されるよ!
[不意に大声で部屋の外に向かって泣き叫んだ**]
…
ズイハラさんっ…
[青年は、来合わせたばかりか、
逃げようともしない男の名を咎めるように呼ぶ。
不意に泣き叫ぶレンの意識が、部屋の外へ
向いた隙に、着物の上を脱いでスプレーからの
盾に使おうとするが――ふと、気が至り。]
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