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[詩を暗誦するように唇を開く]
“その年の桜は、それは見事に咲いたのです”
否、否……。そんなはずも。
[言い聞かせるように独りごちながら、ゆるゆると桜へ向かって歩く。桜の根元。そうも呟いた]
[どれ位見とれていたんだろう。さくらに。
急に寒さを覚えて、わたしは着込んだカーディガンとパジャマ姿で居間へ向かう。]
[怖かった。ただ純粋に怖かった。
思い出される村の伝承。風が吹くと同時に人の命を奪う。人狼の話。全てはイコールで繋がらないと思ったけど…でもわたしは――]
やだ…怖いよ…っ!何で?何でこんな吹雪の中に…さくらが?
[大声を出してしまいナオを起こしてしまう]
あ、ごめんなさ…。
[反射的に謝るが、そんな言葉は届かないまま、窓に駆け寄った彼女はただ立ち尽くす。手元ではエビコがわずかに身じろいで、ゆっくりと起き上がり...の視線を追って、窓の向こうの風景を目撃した]
なんで桜が?
[彼女達が答えを持っているとは思っていなかった。しかし、その異常な、美しい風景にそこはかとない恐怖を感じた。おとといの晩読んだ本のせいかもしれない。あるいは昨日耳にした伝承か。]
[冷え切った風の中、男は歩みを単調に繰り返す。花びらを降り注ぐ桜の群れ。その中に踏み入る。
男は何も言わず、さくさくと、雪を踏みしめる音だけがする]
……。
[やがて薬屋は立ち止まり、何かを見つけ、屈みこむ。
半ば雪に埋もれた少女の姿。ああ。と呟く。
名前はなんだったろう。確か]
――アン。
[気付くとナオが部屋を飛び出して行った。それなのに。病み上がりの少女に声をかけるのを忘れて、窓の外の光景をただ、見ている]
あら?あんなトコに人がいる。
[目を凝らすと薬屋を名乗った男性のようだった。悄然とした姿が気になったのか、それとも単に、目の前の光景が間違いなく現実だと確かめたかっただけなのか]
ちょっと、見てくるわね。
[そう言うと、外へ出る準備をしに居間へ*戻っていった*]
[...の疑問を掻き消すように、ナオが踵を返して部屋を出て行く。部屋に残されて、行き場を失っていた手で、エビコの服をぎゅっと握った。]
なんで。
[同じ疑問を繰り返して、手を握り締めることで恐怖に堪えようとした]
[ふっと導かれたように来たのと別の方角を見た。
こうしてみれば井戸とそう離れていない。
彼女はいつからここにいただろう]
……昨日水を汲んでいたとき、君は既にここにいただろうか。
[嘆息した後、無表情に薬屋が呟く]
[コートと帽子を身につけると、エビコの後を大人しくついて行く。居間にいつもの面々がいるのを確認すると、詰めていた息を吐き出して会釈をする。フユキはちょうど出て行くところのようだった]
おはようございます。
冬樹さん、どこへ?そのままでは寒……
[答えは得られぬまま、ぱたりと扉は閉ざされた]
[男は決心したかのように、ふー、と長く息を吐く]
まあ。ここに放置しておいて何くわぬ顔で「今日の晩御飯なんだい」と言うわけにもいくまい……。
おいで。帰ろう。
[そっと手を伸ばし、アンの遺体についた雪を指で払う。どこか困ったような顔で抱きあげ、立ちあがると、管理棟へと歩き出した。誰かが外に出てきているのが男にも見えた。冬樹だろうか]
[夢を見ていた。懐かしい夢――3つ年上の彼女の後ろを幼い...はいつもついてまわっていた。温かい、静かな笑顔――ああ、随分久しぶりに思い出した気がする]
[やがて夢は遠のき、徐々に覚醒する意識に皆の慌しい様子が伝わってくる]
…ここで寝てしまっていたのか。
[起き上がろうとして身に覚えのない毛布に気がつき、ああ、とも、うぅ、ともつかない呻き声をあげる]
こいつのせいかな。調子は狂うけれど…
[小さく微笑んだ]
悪くないな。
[桜の舞い散る中、男の姿が見える]
あれは確か、薬屋さん……
何か抱えているみたいだね
こんにちはー
[近づいて声をかけつつ、彼の腕の中に抱かれたものに目を向ける]
[窓の明るさに、安堵しながら外を覗き込む]
心配していたほど長く吹雪かなかったようですね。
明日には……っ。
[息を飲み、じっと丘の上に認めたものを睨みつける]
来たか……。
[しばらく扉を見つめていたが、乃木の声に我に返る。]
おはようございます。
無事だったみたいですね、よかった。
[随分と暢気な言葉だと思いながらも、他に言葉が浮かばず。]
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