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……やれやれ、困ったもんだな。
[これで幾度目やら、先刻の来訪者から届いた手紙を開いて目を通す道すがら。]
人狼とはまた、何とも。
[帝都で激務に追われていた頃、作っていた雑誌に、欧州のそういったあやかしの伝承を紹介した記事が掲載されていた事も幾度かあり。]
まさか本邦でこんな話を聞くとはなぁ……。
[感慨に耽りながらも、やむ事のなかった歩みは、召喚状に指定されていた宿屋の前で止まった。**]
[村医者に顔の赤みを指摘され]
その説はありがとうございました。
か、風邪はもう大丈夫…
[隠し仕草で深々と頭を下げる。
消える語尾は新たな誤解を生むやも、気付く筈もなく。]
や、ど?
[聞き慣れた筈も違和感溢れる行き先に、はっと頭を上げまばたきひとつ。]
わたくしで宜しければ、ご一緒に。
[同伴を申し出る言葉を紡ぐ頃には、いつもの柔い笑みを眦に浮かべ、隣へ歩み出た*]
近場じゃなくても怒るだろー
ていうか俺が怒った方がいいのか? まさかゲッカさんが許したりは……
[チカノが黄色いテントの中へと消えると、呆気にとられた顔を引き締め直してぼやいた。
広間での葛藤はどれほどか。
ゲッカが姿を見せれば、ぴしりと姿勢を正し]
あ、はい。いや、ええと……
[「ご、ごめんなさい」口の中でもごりと、緊張した面持ちで、言う*]
― 宿屋前 ―
懐かしいなぁ、この辺は。
あのケヤキの傷までそのまんまや。
[宿屋の隣、今は他人のものになった生家を見遣る。
胡乱な西国訛りは、村を出てから染み付いたもの。
10年前、まだはたちにもならぬ頃のことである。
砂利道を踏みしめる下駄の歩みを、いくらか緩めた。]
この村は、ちいとも変われへんねぇ。
そやけど里帰り早々、阿呆らしい騒ぎには参ったわ。
ほとんど余所者のおれはまだしも、
ゲッカ姉やツキハナちゃんが被疑者やなんて。
……どうかしとる。
[手紙に記載された名前の数々を思い浮かべる。
近所の誼で、少年の時分に交流のあった江夏の姉妹。
先週からは、宿泊客として逗留させてもらっていた。
他、かつて遊んだ懐かしい名前を見かけた気もする。]
婆ちゃんの昔話やあるまいし。
昔どおりは、こないなとこまで……か。
─ 宿屋前 ─
『……処刑……?』
[気づかぬうちに、傍らに誰かがきていたらしい。]
……貴方も被疑者、という訳ですか。困ったものですな。
[声をかけた相手は、見たところ、自分と同年輩─或いは若干向こうの方が若いかもしれないが─の男であった。**]
天ぷらがダメなら、そうね……煮っ転がしは?
[台拭きを手に、バク>>30へと近づく。
するとテントが目に入り――]
[現実から目を背けて玄関へ向かった]
ああ、ンガムラさん。
申し訳ないのですが、こちらにお泊めすることが出来なくなりました。
母は離れにおりますから、よろしければそちらで、もしくはテントで……?
[少々混乱しているようだ。
傍に居る眼鏡の男にも会釈*]
[まず怒られなかった事に、安堵のため息をつく。
謝罪は若女将留守中のテントの惨事へのつもりだったが]
……俺、煮っ転がしのが好きだし、いっか。
[立ち上がると片足で跳ねながら、廊下へと]
あ、御茶屋の。
[救急箱でもないものかとうろうろすれば、宿屋をぶらりとするゼンジの姿]
あんたも呼ばれたのか。
夕飯、煮っ転がしだけど、大丈夫?
[真っ直ぐに見上げた*]
「でもよかったんですか? 団長。あの少女、宿屋に留まりもしないで森の中に走って行きましたが」
審問所として急遽宛がわれた宿屋からほど近くの場所で、
見回りを行う若き自警団員は、言葉とはうらはら
どこか間延びした声で少女の行方を指す。
「構わん。放っておけ。彼女が本当に人狼なら、仲間に知らせるための動きだろうし、もし人間ならこの上ない好餌となろう。食事は生きのいい柔い肉の方が、奴らとて味わい深いものだろう」
「うわっ、団長も人が悪い」
「真実の所だろう。誰だって己の身が一番いとおしい。生き延びる術ならなんでも使いたい。そう思わんかね?」
上役のえげつない言葉に身を竦めた青年に、壮年の思慮は同意を求めるかのように滑り落ちる。
まるでさも当たり前の、正しいことをしているかのような錯覚に陥らせるかのように。
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