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俺は、夢じゃないから。
[冷えたままの左手を、紅いモミジの頬に当てる。今度は前のように慌てて離したりはせずに、彼女の熱が手の平に移ってしまうまで、ずっとそのままに]
一緒に帰ろう。大丈夫、ずっと傍に居るよ。
[想いは昔と同じ。
でも、泣いて大人に助けを求めるしかなくて、居場所を探すことも出来なかった子供の頃とは違うから。
誓うように、そう告げた*]
「消えないよ。」
[子供ではない、相応の。
意志の見える、はっきりとした声が聞こえる。
もう一度、"私"の名を呼ばれて。
近く届けられるその音は、どの鍵よりもしっかりと。
心に、響いて。]
………夢じゃない…
[漸く、やっと。
止まっていた時計が、螺子が。
記憶の針が、動き出したような、そんな気がした。]
───…
[つめたさが頬を覆う。
記憶よりも大きな手。
あの時は背だって、私の方が高かったのに。]
……大きく、なったね……
[片手で鞄を抱えたまま。
存在を確かめるように、手を伸ばす。
耳に届く言葉に、忘れていた笑みが、
自然に溢れて、*零れた*]
「大きくなったね」
[聞こえた声に、小さく笑う。
いつかモミジちゃんより大きくなるという、幼い願いはここだけは間違い無く叶っていた]
うん。図体だけはね。
まだ、頼りないかもしれないけど。
[伸ばされた手に、そっと温もりの戻った手を重ねる]
でも、もう忘れないから。
[とても大切で、だからこそ、守れなかったのが悔しくて悲しくて、記憶の底に封じ込めてしまっていた「たからもの」......もう一度見つけたからには、二度と忘れるつもりはない]
(二度と、手放したくもないけど......)
[さすがに、そう告げるのは急ぎすぎかと、呑み込んだ]
[冬木が声をかけることで七咲も持ち直したよう。
あちらは任せて問題無いと判断した男は、箔源へと瞳を向けた]
……向き合えそうか?
[問うのはただ一言。
彼が、この世界に何かしらの作用を齎したのは何となく分かったから、心境の変化があったのかを聞いてみたくなったのだ]
[落ちてきた兎の言葉には、何も返さなかった。
今更何か言う必要もないような、そんな気がしていたから。
ただ]
……まーな。
[最後に向けられた言葉にだけは、ぼそり、と小さな答えを返して。
虹色と空色が呼びこんだ陽射しに、少しだけ、目を細めた]
……ま、どーなるかはわかんねぇけど。
このままなんもしないで、また繰り返し、に戻る気だけは、ないっす。
[それじゃ何も変わらない、変われない。
先に進めないし、後ろにも戻れない]
やるだけやるっきゃない、ってのは。
……もう、最初から、わかってんだから。
[───カラン、と男は店の扉を開けた]
…ああ、少しな。
[外に出てたんですか?と疑問を向けてくる店員に言葉少なに返し、男はスタッフルームへと入っていく。
店員は、いつの間に?と首を捻っていたが、男は何も言わなかった]
………少しずつ。
[進めて行こう、と。
男は「夢」の計画を纏め始める。
今はまだ、この小さな店を維持していくので精一杯だろうけれど、いつかは]
[──やがて]
[「夢」の第一歩として、ペットショップの隣に小動物カフェが併設される。
そこはペットショップで売れ残ってしまった仔達が引き取られる『家』としての機能を併せ持つことになった**]
[気付けば随原が、そろそろ戻ると口にして踵を返していた]
あ!随原さん、ありがとうございました!
[彼が狭間に落ちた者を見ることが出来たおかげで、随分と助かった。その想いで、なんとか礼だけは口にしたが、さて、届いたかどうか]
俺達も帰ろう、モミジさん。早く医者に診せないと。肺炎にでもなったら大変だからね。
[モミジに視線を戻してそう促す。彼女が同意すれば、二人一緒に、元の町に戻る事が出来る筈...多分、どこかの人気の無いバス停のベンチに]
[狭間に落ちてきた人々を迎え入れたりしながら、ずっと従兄弟の後ろに引っ付いたままだったので、紅葉の一件も一部始終は見ていたのだが。
なんせ向こう側には触れられないので、騒ぐだけ騒いで大して役に立つこともなかった]
お……おおおおぉ?
[従兄弟が空に向けて怒鳴る。
あれほど降っていた雪の勢いが弱まり、やがて止んだ]
雪止まった!
すっげー、何、兄やんが止めたん?
どーゆー能力!?
[そもそも彼が原因の一端だった、という認識はないようだ。
そうこうしているうちにウサギが現れ、時計が直り、鐘が鳴って、そして――]
[戻ってから後は、結構ばたばたしていた。
一人ではモミジを運べないのでタクシーを捉まえて、救急病院を教えてもらい、着いた病院で、モミジとの間柄を聞かれて、つっかえながら「友人」と答え(何か看護師から生暖かく見られた気がする)
診断は、やはり風邪だったが、一晩は病院で様子を見るという事になって]
俺、付き添います。
[勢い込んで申し出たが、完全看護だから必要ないと、あっさりきっぱり病院に断られた(そして、やっぱり生暖かい目で見られた)]
よいしょーぉ!
[狭間からこちら側へ戻って最初にした事は、目の前にある従兄弟の背中に向けて思いっきりタックルを仕掛けることだった]
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