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[一度、忘却の彼方に消え去っていた容と記憶は、レーメフトという旧友との出逢いに拠って、忘れ掛けていた自意識を呼び起こしていた。]
俺が、炉、を起動した……―――。
[呟きは僅かに意識を感じさせる音。
生き延びる為、他者を喰った>>0:6弊害は、記憶の混乱とどれが自分の意識で在るのか不明瞭になる事。]
[さっきまでいた街だった場所とは違い、さらに埃っぽい。砂塵が赤い光に照らされ、不安な風景だ。]
ここどこ?
[埃っぽい風に血の臭いが運ばれてくる。]
ごはん、あるかな?
[ずるずる外套を引きずって、血の臭いがする方向へ歩いて行く。]
にいさま、会いたい…。
でも、夢の中の僕は銀色のまっすぐな毛並みなのに…。
[髪の毛をくしゃくしゃいじって、髪を抜く。それは真っ黒い癖毛。
しばし、髪の毛を見つめて…。]
ごはん、ごはん、血の香り、飲み物…。
[いつも通りの虚ろな瞳で、歩き出す。]
― 祭壇近くのビル ―
[乾いた風に髪を躍らせながら、音もなく地上を見下ろす情報屋の後ろから、覗きこむように顔を寄せる]
本当に、ね。
サーディは使える良い子。
[白装束を次々に屠る姿を眸を細めて見やり、くすりと何処か歪に微笑んで見せる]
でもこんな所で覗き見なんて趣味が悪いわ。
サーディに知られたら、くないが飛んでくるかも。
……良い子?
[突如間近に響いた女の声に、肩が驚き跳ねになるのを堪える。
硬い声で一つの単語だけを繰り返し、出来るだけゆっくりと振り返ろうとする。
その顔を確認する事ができれば、相手が顔を見知る人物ある事を知れるだろう。
最も、相手がこちらを覚えているかどうかは分からない程度の関係性ではあるが。]
クナイか。そりゃおっかネェが……
覗き見が俺ノ仕事なんでネ。
ネーさんだって、覗き見にここニ居るんジャないのカイ?
[風がもう一度吹けば、女の身体から、甘い香がふわり漂ってくるのだろう。
嗅ぎ慣れない蠱惑的な甘さが。]
[赤黒く濁る禍々しい空の色も、其れを背景に、白の翼を広げる有翼人の姿も、見えない。
唯、幾十もの熱の塊が群れ、集う気配を感じる。]
「天使」 「おお生贄を」 「……!」
「救済」 「有り難い」 「浄化だ!助か」
[飛び込んで来るのは様々な音。
有翼人に気付いた者から伝播したのだろう。讃える音が大きく、狂騒の態すら為していただろうか。
胸元に血糊がこびり付いたまま、蹌踉めくように歩んでいたが、]
………?
[足が止まる。また、匂い。]
[風に踊る髪を手で押さえながら]
私は良いの。
これも私の仕事だから。
女は色々と大変なのよ。
[身体にしみついた甘い香りは、男を誘う毒花の香り。
地上から目を離し、改めて情報屋を見る]
ね……貴方なら知っているかしら。
最近この街に見ないれない顔が増えている理由。
うあ、なにあれ、人がいっぱい。
ごちそうの匂いがする。
[白装束の人達が、救済を求めている様子など理解できない。理解できた事は、この時代に人=食糧がたくさん集まっている、という歓迎すべき状況のみ。]
んあ、どうしたんだろ?
[目隠しした男が、胸を血で汚しているのに気づく。]
おにいさん、どうしたのー。
目隠しして、何かの遊び?
胸から血の臭いがする。
それじゃ、食べてくださいって言っているようなものだよ。怪我したの?
[こちらを向いている男に話しかける。]
へエ……仕事、ネエ?
[相手は娼婦ではなかったか、それは一面かと。
探りいぶかしむ感情を隠すこと無く、三白眼は女を見やる。
問いかけには、一つ鼻を鳴らすような頷きを。]
見慣れない顔カ、確かに最近多いナ。
理由ハ……しらネェガ。
そこの『儀式』以外に理由ガあるとすれば……
得体の知れない何かガ起こっているのカモな?
[からかうような声音は、そこに興味が無いからだ。
自分に降りかかる火の粉なら、自らの手で振り払えばいいだけだと、思っているから。]
― 挿話・秘された研究所の… ―
[――其処は、床も壁も緑一色に彩られた部屋。
安心させようとする意図の見え透いた、配色。]
…痛い?
『いたくない』
…痛い?
『いたくない』
…痛い?
『…いたくないよ』
[部屋の中央には、
二つの人影が向き合って椅子に腰かけている。]
匂い?僕は臭くないよ!
[目の前のお兄さんに近づいて、鼻をヒクヒクさせてみる。
血の臭い、のはずだが少し違うような…。でも嗅いだ事ある匂い、あまり好きじゃない匂い、何処で嗅いだんだろう?]
お兄さん、僕の事知っているの?
―イケニエの祭壇傍―
[儀式が行われる祭壇の上空。
ビルの屋上より高い位置を悠々と横切り、手近な建物の屋上に着地する。
既に信者らの一部は有翼人の登場に気付いている様子だが、まだ「降臨」の時ではない。
生贄がその尊き命を犠牲にした時、天使はそれを哀れみ救いの手を差し伸べるのだ]
――おや?
[舞台袖から登場の時を待つ心持ちであったが、ふと舞台の端から中央に向けて、異変があることに気が付いた。
白装束の信者らが、不自然に倒れ、或いは押し退けられていく]
まあ随分と派手なシナリオじゃないの。
今宵の主役は誰かしら?
[くくっと喉の奥でくぐもった笑い声を立てると、今はショウの成り行きを見守る心算で祭壇を見下ろした]
[短い問を向け続けるのは、道化たなりの青年。
回らぬ舌で返答するのは、白い貫頭衣の青年。]
…ん、なに
[ふと、道化の青年が扉の方へ視線を向ける。
――扉は細く開いている。
其処から室内を覗く陰、艶やかな銀の毛並み。]
ベルンハード
ひとり?
… そんな はずないか
[コツリ、床を踏む足音。遅れ来た態の人影。
癖と思しき手つきで、先に居た銀毛を撫ぜる。]
もう終わるよ
[視線を戻しながらの声に
頷いたのは…誰だったか。]
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