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[描きあがったのは青いドア。
パステルの、タッチもなにもないそっけない線で構成されたそれは、「ドアの絵」と言えるかどうかも怪しい]
……俺、また視力が落ちたか。
[単なる平面であったはずの壁に、いつの間にかドアが出現している。
先ほど二人で描きあげたドアではなく、本物の扉が、ノブが。
眉間を押しても、目元を擦っても、見えるものは変わらなかった。
ドアと少女を代わる代わる見比べて、ままよと眼前の扉を開けば──溢れてきたのは眩い光。
昼間の光に見紛うほどの、祠にはえた光苔だった。]
誰よ、こんな所に祠建てたのは。
もう、もう、殺しちゃっても、いいんじゃない?
[ううう、と唸る声。
通常であれば、もう祠を建てた人間はとうに死んでるだろう、だからこそ遠慮もない文句。
自分ではない者が同じく祠を目指しているなど思いも寄らない、大きな独り言を言いながら行く]
[>>49光苔のまばゆさに顔をしかめて、くすくすくすと笑う]
ライデン先輩、さっきどっちの手で線を引きました?
いま、どっちの手で、ドアを開けました?
[後ろずさって、祠から一歩二歩と距離を置いた]
さよーなら。
[しばらく進むと前を行くンガムラの姿に気づいた。
いつも通りに「あの人は女性」と自分に暗示をかけながら言う]
こんなところで、何やってるんですか?
[目を眩ませる光に瞬きが増える]
……は?
描いたのは左で、ドアは……って。
さっきから小鳥川、お前が何を言っているやら全く理解できん!
説明をしろ、説明を。……ちょ、
[振り向けば、後ずさってゆく後輩の少女。引き留めるべく腕を伸ばす」
―― たそがれどきのかえりみち ――
[すこし時間は遡る。帰る道行きの途中。
広いスイカ畑の向こう側を歩む人影を見た。
小姐は、眦の切れ上がった双眸を細め
やや距離を置いて歩く2つの其れに目を凝らす。]
… ライデンくんと、ミナツ坊…かな ?
[年下のふたりは、此方に気づく様子もなく――
怪訝そうにしながら、小姐は声をかけようとする。]
おーい、どこ行く…――――
[ぞくり、と小姐の背筋が凍った。]
[――――「あっちへ行こう」。
なんのことだかなんの声だかわからないというのに。
「こちらにおいで」ではないことが無性に怖かった。]
[やはり小姐に気づくことなく歩いていくふたつの影。]
[スイカ畑の中に立つ古い電柱に、ツタが巻いている。
上まで伸びて電線にまで絡んで覆う鬱蒼とした姿は、
両腕をおおきく広げて立ちはだかる怪物にも見える。]
「 あっちへ行こう 」
[引っ張る力さえ秘めるその声を、]
―――― 行かないっ
[振り払うように叫ぶと、小姐は身を翻し走りだした。]
あらん。おにっきーちゃん。
[ハンカチで顔を覆っている。
怪しさは倍増である]
祠を探してるのよう。
おねぎちゃん、確かここ、気にしてたし。ここなら、誰も探していないだろうしね。
[潔癖性の男が弱点をおして来るには酷い場所だ、馬鹿なことしてるわね、と肩をすくめて見せて]
おにっきーちゃんもおねぎさん探しにきたの?
[首を傾げた]
説明と言われても、あたしにも何がなんだか。
ネギヤさんか異星兎さんに聞いてくださいよー。
[ひら、とめくって見せるセーラー服の裾。
そこにあるのは左右反転した『小鳥川』の刺繍だった]
先輩は、元に戻れるといいですね。
[取られた腕と反対側の手でポケットをさぐり、星の形のグミを取り出した。
ライデンの目の前へそれを差し出して、微笑む]
あ、それじゃ私と同じですね。
祠を探しに来たっていうか、場所はだいたい分かるんですけど。
だから、祠に来たっていうのが正しいですかね。
ネギヤさん、あそこ気にしてたんですか?
あ、こっちですよ。
この先を少し進めば祠です。
[ンガムラの問いには答えず、辛そうな彼を案内する]
あっちに行こう。
あっちって、どこ。
いやだよ、行かない。あたしは帰るの。
[星のかけらが秘める思いと自らの其れが入り混じる。]
帰るんだ、…ッ
[闇雲に走った。
くずれるふるさとから逃れてきた、流れ星のように。]
場所解るの?
[通り過ぎてきた立ち入り禁止の看板を見るように、とうに見えない道祖神に視線を投げて]
まさか秘密基地にしてたりしないわよね。
[しっかりとした足取りの相手の案内について歩き出す、あたりをきょろきょろしながら]
おねぎさん。
そうね。かえる、とか、もどる、とか……そんなこと言ってた。
[唇を指で撫でる]
はあ、はあ、はあ…
[やがて走り疲れて、わらう両膝を掴み
肩で息をする頃には――――裏山のなか。
とうに蝉はなきやんで、まばらにりりと鈴虫がなく。]
ここ、どこだろ。
あれは…
オーナーと。ニキ坊…… ?
[祠へのほうに分け入る背中を見かけて、
がくがくする足を ゆるり そちらへ運んだ*]
秘密基地だなんて、まさか
小学生じゃないんですから。
[ンガムラの言葉にそう言って笑って]
かえる、もどる……か。
ネギヤさん、知ってたんですね。
[呟かれる独り言。気がつけば祠の前に来ていた]
あら。意外と素敵じゃない?
……もうちょっと綺麗なところだったら、だけど。
[前半は楽しげに、後半は眉を引きつらせて]
……知ってた?
[祠の前で立ち止まれば静寂の中、その言葉は不思議と耳に届いた]
けど、俺よりは事態を把握しているはずだろう。
何せ扉を描いていたのはお前なんだし。
[片手で恐る恐る壁に生える光苔に触れてみる。温かい。
少女のめくれたスカートに目線がつられかけ、慌ててそらす。ややあって首を傾げた]
異星兎って、物語に出てきた願いを叶えてくれるとかなんとかの……?
[「先輩は」元に戻れるといい、との言葉に、腕をつかむ手へ思わず力が篭った。
グミを空いている手で受け取って、少し迷ってから口に放り込む。
掴んだ手は離さぬまま、胸ポケットから金平糖が詰まった小瓶を取り出して、少女に差し出した]
小鳥川は、これからどうするつもりなんだ?
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