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……霊能者かどうかは、わからん。
俺ァ昔っから死んだ奴と生きた奴の区別が出来ない性質だったが……人間かどうかっつーのは、どうやったらわかるモンかわからねェんでな。
[やはり、と言うトゥーリッキには、やや申し訳なさそうに答える。
マティアスはこうして死んだ人間の声を聞く事ができたが、自覚しているのはそれだけだ。
相手が人間かそうでないかの判別など、した事もない。]
本当は……俺みてェなのが、死ぬべきだったんだけどなァ。本当に、お前さんには悪い事しちまった。
こんな目じゃァ、蛇は責任持って面倒見てやる、とも言えねェし……
[本来であれば、盲目と言う欠陥を持つ自分こそが死ぬべきだった、とマティアスは考えていた。
ただ、死ぬだけの勇気がなかった。立候補するのが怖かった。
だから、彼に押し付けた。]
……残念ながら、俺にゃァお前がナッキだったかどうかの区別の付け方がわからんがね。
ただ、今までさんざ聞いてきた死んだ人間の声と、何ら変わりゃしねェよ。
それに、本人がそう言うんなら、多分そうなんだろ。
[未だに、自らが霊能者と呼ばれる存在だとは信じがたい。
が、他に死人と語らう事の出来る者がいないのであれば、おそらく自分がそうなのだろう。
人間かそうでないかの区別の仕方は今一わからなかったが、何となく、彼は人間だったような気がした。]
……そうかァ。ありがとな。
お前の言葉は、ちゃんと伝えるからよ。他にも、言いたい事がありゃァ言ってくれな。
……俺も、覚悟決めねェと。
[トゥーリッキの声がする方向に頭を下げ、礼を述べる。
それから、何かを決めたように、ぼそりと呟いた。]*
―― 昨夜のこと ――
[最前、執拗に死者を呼び戻そうとする
養蜂家の肩を掴んだニルスが見た横顔は、
酷く頑なで、毫も譲歩する気のない其れ。
旅の蛇遣いへ謂われなき告発を突きつけ、
食い下がる相手の弁に一切黙するこの折も
半ば隠れた横顔は同種の色合いをしていた。
遊戯に模した惨劇や超常の能力者について
ミハイルが語る間は、旅人を追い出すための
ドアノブに手をかけたまま"待っていた"。]
[横合いからニルスが分析してみせた
人間心理の皮肉の数々は、果たして何割が
野歩きの男に宛てられたものだったか。
遠いはずの互いの間合いを稀にも割って、
理に添わない此方を止めようとした学者。
男は、それでも結局は放っておいてくれた彼に
応える如く、完うな毒舌を遮ることはしない。
――ユノラフと刺々しく応酬をするあいだも。]
[血まだらに染まった白蛇には触れず。
養蜂家は自らの手を汚さずに死へ追いやった
トゥーリッキの生温かい屍をひとり雪に埋め、
いつしか、
誰もいない2階の廊下をあるく。]
[戻るのは帳のない、しろく眩しい部屋。
…蜂型をした財布は、まだ開いていない。
枕元へ置いていた壷を引き寄せる。
其れは、抱いて眠れば薄らと*あたたかい*]
[やはり彼が何かしらの能力を持っているからだろうか。]
あの、やはりなにか、見えて…?
[見える、というのは彼にとってはあまり適切な表現ではないが。
それでも側にいる誰かと話しているような姿は、
そうお思わずにはいられなかった]
[遺体が湖から上がったと謂う話は、
クレストの部屋をすぐに出て聞きそびれたものの
思念が聲が、ミハイルに教えてくれた。
便利なものだ、本当に。]
――。
[バスローブを浴室で脱げば、代わりに調達した衣類を纏い。
黒を基調とした衣類は、民族模様を首繰りにあしらっていた。]
煙草が、……吸いてえな。
[残る数本の入ったパッケージを昨日の衣類から取り出す。
乾いた血が張り付いていたが、構わず。
一本取り出して口へ細巻きを咥えると、
上衣の胸についている浅めのポケットへ箱を押し込む。]
[祖母と出会ってから暫くして、
司書は祖母に引き取られた。
両親の表情は、ひどく晴れ晴れしいものだった。
祖母に引き取られてからも、
体質的な問題から、外に出ることは少なく。
祖父が残していった大量の書物を漁る日々が続いた。]
[それは、日光の降り注がない、雨の日。
右手に本を、左手に傘を。
帰路を急ぐ少年――司書の足が、雨に取られる。]
[今とさして姿の変わらぬミハイルと出会ったのは、
そのときのこと*]
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