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[いや、それは本当に祈りの歌だった。
讃美歌320番。
1912年、氷山と衝突した豪華客船タイタニック号で演奏されたという、有名な曲。
主よ御許に近づかん
登る道は十字架に
ありともなど悲しむべき
主よ御許に近づかん
声の主は母だ。]
[母についておぼえていることは少ない。
あの事件のショックで、幼い初音は多くのことを忘れてしまったのだけれども。
まれに、ふとした拍子に、母の歌声を思い出すことがあった。
現し世をば離れて
天翔ける日来たらば
いよいよまず御許に行き
主の笑顔を仰ぎ見ん
そういうとき、初音はいつも考えてしまう。
母はなぜこの歌を好きだったのだろう。
たくさんある讃美歌の中で、なぜよりによって、この歌を……と。**]
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