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[雪の中にずっといたのだろうか、
クレストの手は極度に冷えていた。
長袖を着ているとは言え体のほうも冷えているのだろう。
暖炉を見ても火種は無い。]
……あの、朝食の用意も出来ていますので
召し上がるなら暖炉の方に運びます。
[冷えた体を温めるなら、
なるべく暖炉の近くにいたほうが良いと思い、
提案してみるが、彼は食べてくれるだろうか]
―― コテージ / 裏口 ――
[遅れて戻った男は、濡れた外装を振り捨て
つめたいドロテアを荷馬の背から下ろす。
待っていてくれたユノラフの手を借りて、
裏口から土間を通って――――浴室へ。]
湯はあるかい。
…野菜のゆで汁だって構わないから。
[ふと香った煮炊きの匂い。
連れ帰った娘をあたためる手段を模索する。
医者でもない身が、つたなく手を尽くす。]
[暫く広間のソファで眠気を耐えていると、
クレストが戻った事に気づいた。]
おォ、お前らなんで出てったんだそーいや。
食料の確保か?
…ダグはどうした。
[一人しか戻らなかった事には首を傾げ。
そう話しているうちに、戻るやも知れないが。]
……… 外で、ドロテアが、
[死んでいた、と、認めたくない。
まだ生きているかもしれない、と。
一瞬、そんな期待が頭を過ぎる。
けれどあの時触れた彼女は、ぴくりとも動かず。
肌の色も、死人のそれだったから。]
ドロテアが――…死んでた。
溺れた…って、ダグのおっさんは言って、た。
[濡れた格好で腰を下ろすわけにもいかず、
大広間の入口近くの壁に身体を預けながら、
ぽつり、ぽつりと見てきたことを話していく。
顔色はさらに悪く、震えも、止まってくれない。]
[周囲の反応はどのようなものだっただろう。
冗談と笑う者も居たのだろうか。
司書の表情や声色から、それが嘘ではない事を
察する事くらいはできる筈だが。
重たい唇は、それきり閉ざされたまま。
何かを問われれば、その都度口を開く。]
[濡れたズボンが、小さな水溜りを作っていた。]
[やがて報せに人が姿を見せたなら、
畑違いの昆虫学者にさえ知恵を求める。
けれど、ドロテアは還ってこない。
屍肉に立つ霜柱がとけたころに、
心臓を圧迫して、
圧迫して、
圧迫して。
肋が軋む手応えをおぼえてはじめて、
手を止めて。
――彼女の両手を胸上に組ませた。]
ダグのおっさんが、今…、
ドロテアをつれて、きてる、から…。
もしかしたら、生きてるかも、
知んねェし――…、
[裏口の方向を、示す。
もしかして、もしかしたらと。
すれば、誰かがそちらへと向かっただろうか。
もしかしたらそれよりも先に、ユノラフが一言、
ダグが戻ってきた事を知らせに来たかもしれないが。]
[頭に浮かぶは能力者の事に関してだ。
マティアスの奇妙な行動については――…
ミハイルはこの目で見ては居ないが、
テレパスで通じる精から話は聞いている。
彼は盲とはいえど、気が狂った男では無い。
実際、悪しき者の邪魔になる能力者と
過去に対峙した事もあるので、残せば命取りになるとも。
さて、手記とやらに何が書かれているか解らないが
得になる事は何ひとつ書かれて無さそうだ。
連中が動く様子が無ければ
葬り去っても良いかも知れない。
もしくは――内容にもよるが、誰かの部屋に隠すだとか]
[何故――…何故、ドロテアは外に出た?
自分が見た限り、彼女は薄着を纏っていた。
それで外に出るだなんて、正気の沙汰とは思えない。]
[ならば、誰かに殺された?誰に?
コテージにこれだけの人数が居て、
誰にも気付かれず、
ドロテアを外へ連れ去る事が出来るか?
何らかのトリックがあったとでも?]
[ぐるぐると思考は廻る。
いくら考えても、司書に結論は出せない。]
………あいつが何で、外に出たのか分かんねぇ。
けど、ドロテアの居た部屋になら、
理由がわかるものがあるかもしれねぇから、
誰か、見に――… 、
[はたり、言葉が止まる。]
あ、 れ?
[視界がぐるぐると、回るのは何故だろう。
壁に体重を預けても、立って居る事ができず。
そのまま意識は、ブラックアウト**]
[崩れかけたクレストをなんとか抱き留め。
濡れたままで脱力した体躯は、重みがある。
サーベルを腰から外しソファへ預ける事で、
身動きを取りやすくして。]
仕方ねぇな、こいつの部屋で休ませて来る。
イェンニ、着替えを探せねえか?
寝かせるにしてもこのままじゃ風邪ひくだろうし
[そう言い残し、クレストを肩に担いで二階の部屋へと。
ドロテアの部屋へ行く良い機会でもある。
クレストの介抱中に誰かが足を踏み入れるならば
それはそれで仕方の無い事ではあるが。]
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