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君は、これ好き?
取れたら引き取ってくれたりするかな。
[顔見知りでもない男がいきなりこんなこと言ったら怪しまれるかもしれない、と思い至らなくなってるくらいには悔しかったらしい**]
[ぼんやりと。
物思いに耽ること約(06)]分。
そろそろ場所移動を、と思い鞄に手を掛けた瞬間――]
…八重…藤……?
[目の前にふわりと広がった紫いろ。
数代前の趣味娯楽から始まった藤棚作り。
実家では無数の藤の花が次々に花をつけるけれど。
突然変異とも言われる八重藤は、果たしてあったでしょうか。]
樹村の…おじちゃまなら、
――知ってるかも。
[幼い頃から見慣れた景色は、
【藤の花】、ただそれだけの。
おぼろげな記憶しか残ってなくて。
精々、あんなちゃんと二人で、花房をぶどうと間違えて口にしようとして、ともゆきくんに止められた記憶しか強く残っていなくて。]
う〜ん、思い出せない。
[悩むそばを、ふたたびうさぎが横切った。]
――…実家でうさぎを飼った記憶は、流石にないんだけど、な。
[馴染み過ぎた景色のおぼろげと。
馴染みのない動物のおぼろげさに。
わたしは春の魅せたまぼろしだろうと思い込んで。
再び目をこすって、ベンチから*立ち上がった*]
……よっし、終わり!
帰ろ。
[一日も無事終わり。
保健室に鍵を掛けてから、未だ練習の行われているグラウンドの隅を通り、校門をくぐる]
ん、まだ明るい。
[少し前ならすっかり真っ暗になっていたはずの空も、徐々に日が長くなり。
気をつけなくても歩けるのをいいことに、空を見上げながら足を進めた]
[ここで突っ立っていても仕方ない。
そう思ったけれど、どうにも気が乗らない]
……んー、ちょっと、歩くか。
[まずは気分転換するべきか、と。
そう呟いて、遊歩道を歩きだそうとして]
……?
[根拠はない。
ないけれど、誰かに呼ばれたような気がして振り返って]
……っ!
[いろが広がったのは、一瞬。
霞纏って揺れる藤色は柔らかく──けれど、瞬きする間にそれは消え失せる]
……なーん、なの。
[ぽつり、零れ落ちる呟きは小さく掠れたもの]
疲れてんのかなあ……。
なんか、ばーちゃんのお気にに似てんなぁ。色。
[その空の色にふと思う。
今は亡き祖母には懇意にしている仕立屋があって、その特に大事にしていた着物もそこでこさえて貰ったものらしい。
真昼自身もたまに祖母に着いて店に行ったり、また代わりに品を取りに行ったりしたついで、そこの娘さんと他愛ないお喋りをした記憶がある]
……元気にしとるといいけどなぁ。
[帰郷の折、その子の噂を聞いたのはどのくらい前のことか。
表情を少し曇らせた……が、それも刹那の事]
…… うぇ?
[空の色が少し変わった―― だけでなく、手の届きそうな位置まで落ちてきた。
瞬き数度。
薄紫色の花の群れははたちまちのうちに失せる]
…… えぇぇ、なに今の。
[疲れが見せた幻覚、と言ってしまうにはあまりにはっきりとしたそれ。
人通りの少ない静かな道の上で、一人立ち竦んだ**]
[ゲームの行方に注目していたら、商店街のどこかから聞き覚えのある歌が耳に届く。]
(…あ、この曲…)
[とある映画の主題歌だったという記憶。
曲自体にそこまで思い入れがあったわけじゃないのだけれど。]
(今頃どうしてるんだろ)
[この街に越してくる前、まだ幼かった頃の記憶。近所に住んでいた、云わば憧れのお姉さん。女優さんになったって聞いた時、自分の事のように嬉しくて、映画、何度も観たっけ…。]
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