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― 灯台 ―
うん、いい場所だ。
ああいや、大丈夫大丈夫。
[普通に立つには問題ないだけの空間は十分にある。ただ高い場所に慣れていないのと、二人並ぶとなれば距離云々…だった。
後を追って半周廻り、指差された場所に結ばれたものに首を傾げる]
おみくじみたいな結び方だ。
[願掛けだろうかという予想は微妙に外れた。
大層なものじゃない、というのには緩く首を振りつつ。
開かれた進路用紙に何度か瞬く]
感謝したいのは、俺もなんだ。
店に行けばと分かっていても、独りだったらまた逃げていたかもしれない。
見ない振り、知らない振りを続けて……いつか、後悔していたかも。
[力の流れが幾ばくか見えたりもするようになっていたから。他の人が見つけただけで足りるかもしれないと思えば、敢えて見つけようとはしなかったかもしれないと。
その可能性は十分あったと思われた。
ホゥ、と小さく息を吐く。
逸らしていた視線を六花に戻し]
だから、ありがとう…六花君。
[ヒュルリと風が吹きぬけて、カチリと時計が先を刻む。
微笑しながら、スッと右手を差し出した]
……うん。
[堅実な道を選んでから、幾年月。
写真は趣味として続けては来たが、本気で目指そうとしていた夢は、あの日以来口にすることなく過ごして来た。
夢の破片が風に乗り碧海の波間に紛れるのを見送って、「良かった」という声に首肯した。]
知ってのとおり、こうして平凡な会社員になっているわけ ですけど。でも、後悔はしてないんです。
「刻」に――省吾さんに、出会えましたから。
個展の誘いを貰った時に、夢が またほんの少し動き出したの。
切欠をくれた省吾さんに一緒に来て欲しかった。
聞いて欲しいって思ったのは、わたし なんです。
[最初に画廊に赴いた日と同じように、省吾は自分の一人語りも厭うことなく話を聞いてくれた。知り合ってから長い年月は経っていなくとも、「刻」も省吾と話す時間も、今の自分にとってはほっと出来る場所なのだと。
小さな声で紡ぐそれは、自分で良かったのかという言葉への返答にもなるだろうか。]
[頬を叩く音に瞬きして、それから省吾の言葉を聞く。
省吾が向き合う事を恐れたものを自分は知らない。
それでも、真摯な感謝の言葉を向けられたなら、話に聞き入る真剣な眼差しがほんの少し和らいだ。心がほわりと温かくなる。]
…そっ、 か。
少しでもお役に立てたのなら、嬉しいな。…嬉しい。
[時計の針が進む音。
自分の手元に時計は無いのに、どこかで何かが動く音。]
…―――、
[差し出された手を見詰め、
それからふわりと微笑んだ。]
はい。
[合図のような右手に、自分の小さな手を重ねて。
遠慮がちに、ごく軽く握った。
何となく顔が上げ難くて、灯台の階段に目を向けてしまったけれど。]
[六花の語る夢。叶わなくても輝いている夢。
目の前しか見てこなかった自分には眩しくて、けれど綺麗だと思った。それを語る六花自身も]
そうか。
勇気出して良かったな。
[怪しい人と思われないか、何度も躊躇ってから声を掛けたあの日。それが六花のためになったのなら、自分も嬉しい。
同時に何やら気恥ずかしくて、視線を合わせられなかったが。
もう一度勇気を奮い起こし、真っ直ぐに見て]
……戻ろうか。
[そろりと重ねられ、握られた手>>112を包み込む。
ありがとう、これからもよろしく。無言に託して。
六花の視線が階段に向いているのに気がつくと、ゆっくり放して身体の向きを変えた]
そうだ、嫌じゃなかったら。
向こうに戻った後も付き合ってもらえるかな。
[戻る途中でもう一度]
夕飯でも食べながらもう少し話したい。
奢るからさ。
[母の下から届いた手紙。そこに何が書かれているのかは分からない。向き合う覚悟は決めたけれど、相談に乗ってくれる相手がいたら心強い。
薄灰色の灯台の階段を降りながら、そんなお願いをしていた*]
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