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『「人は違ってもまったく違わないのがひとつあるでしょう? 馬ですよ」
お手製のキャロットジュースを振る舞いながら、氏は屈託のない笑みを浮かべる。
「馬が選ぶんです。ギュネスを。見てください。他のと比べてギュネスの馬の大きいこと」
比較すれば確かにその大きさが際だっている。ばんえいとポニーとまではいかないまでもそれに近い程の差が見受けられた。』
『「これだけ大きい上に、気性も相当やんちゃだったみたいでね。だから普通の兵士じゃまず乗りこなせない。
無理矢理乗ったら落とされて踏んづけられちまったんじゃないですかね?
だから、この子に関しては乗り手が馬を選ぶんじゃなくて、馬が乗り手を選んでいた。
ギュネスが活躍した期間はおよそ15年。この間ギュネスと言われた人物は四人います。
馬というのは4掛けして人間の年齢と言われていますから…最低60歳まで現役だったってことですね。まさしく怪物ですよ。
そりゃ当時の戦場で一番槍なんてやってたら寿命なんてあっという間ですよ。
けれど騎士は皆この子に乗りたがっていた。それほどに強くて速くて…そして勇敢だったからなんです」』
『……というのは祖父の言葉なんですけどね
っと、はにかむ氏を横に小生はもう一度その肖像画を見つめてみる。
確かにちぐはぐな文献の差異もこれなら筋は通る。
肖像画も描き手を違えながら、その馬に関しては酷似していると言っても差し支えないだろう。
鞍上を第二の住処と定めた騎士たちにとって、その相方の存在は伴侶が如く……
ならば、当の馬たちにとってもそれは然り。
強く、速く、気高く…騎士たちの羨望を集める程の馬ならば、自らの背を許す存在をもまた選んだとしても不思議ではない。
馬……いや彼女の伴侶たり得る騎士はそれはそれは勇敢で、そして美しくもあったのだろう…
美丈夫の顔を見つめながら、小生は小さくため息を零す。
小生がこの時代に生を受けたとしても、きっと見向きもされないことを知っていたからだ。
── ヴァルター=V=ラーゼン「村長さんちの馬破れて草原あり」より』
この辺りの文献、探してみるとたくさんあるんだね。
それでもシュテルの正体について、はっきりした結論は出てない……か。
[手近の文献をぱらぱらめくり、また棚へと戻す]
でも、シュテルがマッテオだって仮説で、だいぶ筋が通る気がしない?
真実は――たぶんもう、誰にもわからないけど。
彼らはさ、千年以上も後の人間が、自分たちの志や生き様を想像して、熱く語るなんて、夢にも思わなかっただろうね。
[地図のコピー、中央の辺りを指でなぞり]
命尽き、墓すらも朽ちて、城の名が失われても、尚残るものがある。
ロマンだねえ。
シュテルは軍を二つに分けたのかなあ。
[>>6:13指で作った足でてくてくと、ヴィルコラクからピジェまで歩く。
城壁の増築。ヴィルコラクを黒獅子に攻めさせてなお、首都に攻め込まれることを予想したのだろうか]
いったい誰が。
[唇を撫でて、思案]
[地図の上を歩く指>>127を見つめ]
シュテルと同等の力を持つ、指揮官。
三将は武力には長けているけど、いささか心許ない。
守護天使はその名の通り、護りを得意とする。
二分した軍の一方を、シュテルと同じように率いられる者――
彼の、半身?
そうね。
まさか情けないだの、いや見込まれた男のはずだなんて、シュテル、ひどいくしゃみしていると思う。
[>>126ミカの声に顔を上げる]
わかっているのは、城は朽ちて跡形もなく、彼らも多分、同じ運命をたどっただろうということだけ。
それさえも、私たちの想像の上でしか、ないのだけれど。
なるほど。半身。
[>>128わからない、とさじを投げるのは早いか。
ミカの顔を見て、小さく頷く]
半身といえば……トゥナ。
イレアナかもしれない彼女には、求心力もあっただろうし、オイナの一族であった彼女なら、馬も指揮もこなしてみせたに違いない、か。
一度に二つの城を落としたとも、翼が生えていたとも噂される英雄。
その正体は、何よりも強い絆で結ばれた、離れていても通じ合う、ふたり。
トゥナならね、その力はあったと思うよ。
[ドロテア>>130に頷き]
ただ、
どちらもたやすい戦じゃあない。
分かれてしまえば、もしかしたら二度と……
[言葉を切って、わずかに目を伏せた]
[ウルスラの声>>131に視線を上げ]
そうだね。
執着王がその後圧政を強め、虐げられた民が英雄を懐かしんで伝説を残した、って考え方もあるけど。
逆にシュテルを支持した人々、いわゆるファン達にも、執着王は案外寛大だったのかも知れない。
そうだな…時の権力者となったのなら、もう少しましな記録を残したはずなんだがな……
[ウルスラの言葉>>131にしばし目を閉ざし]
ファン……と言うものなのかはわからないが、か志を継ぐ存在にとってシュテルは大きな導となったのかな?
この戦いでめでたしめでたしとする文献はない。嘆きのイレアナと共に流れ出した革命と言う名の灯火……当時のバランスを考えれば、それは吹いて消えてしまうものだったのかもしれない。
けれど、燻った火種はやがて歴史を覆い尽くす大火となってこの地方に広がっていった。
ヴェルフェルミ達アイヴァンホーの統治は長くは続かなかったんじゃないかな?
二度と会えなくても──…、
心は離れない。
そう信じられるなら、出来るのかも。
[ヘンリクの言葉の続きを掬い上げるように続けて、小さく首を傾けた]
ん。シュテルはファン、多かったと思う。謎めいていて、強くて、そして破れた。
執着王が嫌われていたか。シュテルたちが好かれていたか。あるいはオイナの操作……とか。いずれにしても。
[>>131ウルスラにうんうんと頷き]
勝った執着王は歴史を変更するのではなく何故か削除して……その上に後の人たちが英雄としてのシュテルを上書きした……のかもしれないね。
なあんて。
ロマンはいいよねー、ロマンっ
…でもあったんじゃないかなあ。命懸けだし。きっと、平和な今のあたしたちには思いも寄らないほどのロマンとか。必死な思いとかが、きっと。
勝者が歴史をつくるっていうけれども、執着王の次世代は誰が引き継いだんだっけ?
[まるで覚えていない。そういえば最後の攻防、ピジェの戦いで嫡男は亡くなったのではなかったか?
そしてまったくもって印象が薄いということは…?]
心は、離れない――
[はっとしたようにサーディ>>135と視線を合わせ]
そうか、そうだね。
そのくらいでないと、半身とは言えないか。
[双子の顔を見比べて、柔らかく笑む]
ロマンだよねえ。
ふふ。そうなってくると、執着王も俄然興味深い性格。
[ウルスラ、ミカ、アルマと、話すのを聞いて]
興味のないことにはとことん興味がなかったのか、あるいは、ね。
[彼らが何を思ったかなんて、想像するしか知る手だてなんて無いけれど]
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