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[本来ならば動けないはずなのに、必死に自分にしがみついてきた相棒を、そっと見る。
自分の命は相棒が救ってくれた。
ならば今度は自分が。
相棒のためなら、命を差し出しても良いと思えた。]
[びゅ 、
―――ゥん]
[久しぶりに抜き身で振るうサーベルの感触を、
風を切る音と共に確かめて。
大丈夫、腕は鈍っていない。
自分の代わりにこいつを、と。
誰かを示す素振りを問い>>243に答えるようであったなら、
態と急所を外しながら甚振る事にも考えは及んだが。
彼の言葉は、潔白な魂を抱く清らかなものだった>>248。
トゥーリッキがただの人間である事を知っている
悪しき水の精と呼ばれる存在は――
できるだけ即座に、
そして永遠の安らぎを与えようと、心に留め。
静かにサーベルを両手で握り、そうして力を込める。]
>>260[ミハイルは約束すると言う。
嘘をつくこともできるだろうが、今は信じるしかない。
彼は覚悟を決めた。]
悪いね。
お前に救われた命を、こんな形で終わらせてしまうのは、本当に残念だ。
でも、これでやっと恩返しができる。
新しい主人のもとで、幸せに暮らすんだよ。
[そう言って、相棒を離そうとするが、しっかりと絡みついたその身体は、ピクリとも動かなかった。
仕方なく、そのまま、両腕を広げ、]
きちんと、急所を狙ってくださいね。
相棒には当たらないように。
ミハイルに、そう告げた。]
[ごぷり、]
[刃は胸部から背面へと突き抜け、
身に纏った白いブラウスを汚し、血の斑点を刻む。
確かな手応えを感じ取りながら、
トゥーリッキの耳元で一度、誰にも聞こえぬ小声で囁いた。]
………死ぬのも悪くはねぇと思うぜ。
一度死んだ俺が謂うんだから、間違いない。
[そうして、事切れるのを待たずに刃を引き抜く。
白い雪面にも、朱肉のように朱い、あかい斑点。
彼の喉元に居る蛇には、手を出す事はせず――]
[スローに雪の上へと倒れこむ旅人から視線を離す。
下衣のポケットから煙草を出し、一本咥え込む。
血の飛び散った片目を伏せ、オイルライターで火を灯し。]
いィ、――火加減だ。
[しんしんと積り続ける雪の中、一本の紫煙が上がる。
其れは一度だけ魂を送る狼煙となって上昇し――、
そして、風に流されて、消える*]
[少女を招く聲は、人のものにあらず。]
[おいで、おいで―――死の淵へと。]
[おいで、おいで、おいで―――お嬢さん。]
[湖へと招く歌を奏でるオクタヴィストの聲は、
イルマの脳へと、響き渡り―――*]
>>264
「ニェーボへ行けますように。」
[それが、彼がまともに聞いた最後の言葉だった。
ニェーボとは、何なのだろう。
理解する間もなく、元軍人だというミハイルは、宣言通りまっすぐに自分の心臓をめがけてサーベルをつき刺す。
そして耳元で何かをささやき、刃を引き抜くとトゥーリッキはそのまま、倒れ込んだ。
白い雪原が赤く染まって行く。
きちんと急所を狙ってくれたのだろう。
そのままたいして苦しむこともなく、永遠の眠りに就いた。]
[そうしてミハイルは無言でその場を辞す。
湯浴みを済ませ、クレストの部屋へと向かう。
背中を押された上での、選択**]
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