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どうしたものでしょう。
[軽い荷物は持っていたが、それでも借家にはいくらかの持参品が残っている]
お風呂ですか。空いていると思います。
風邪に気をつけて下さい。
借ります。
[入口にあったレインコートを羽織り、囲炉裏の向こうの窓に向かう。
開いて乗り越えようとした所で、ホズミの声が聞こえて]
混浴。話に聞いたことがある文化です。
話していた人は、とても楽しそうでした。
でも私はこれから大自然と闘ってきます。またの機会に。
[スチャッと手を掲げ、窓から飛び立った]
[奥の間を覗くが管理人が戻った形跡はなかった。居間に戻ると誰も居らず]
おや、皆さんお戻りになられたのでしょうか。
[雪が音を吸うのだろう、しん、と静まり返った居間の様子にふと違和感を覚えてぐるり眺める。と、本棚の中に慌てて戻されたのだろう、一冊の本が変に飛び出ているのを見つけた。手に取ると]
『 ○○村の記録 伝統と伝承』
人狼? ……ジンロウ…人狼?
[呟く声に困惑の色が混じる。背表紙を見返し、また本に戻ると、穴が空くのではないかと思われるほど凝視しながら読み進めた]
[背後から足音、次いでホズミの声が聞こえると本を閉じて振り返ると]
おや、お風呂でしたか。
他のみなさんもご一緒ですか?
ああ、この村の郷土史ですよ。
フユキさんあたりが読んだのでしょうね。
[後ろ手に隠していた本を出すと表紙をホズミに示して]
興味がおありですか?
ああ、それでしたら
[ほらここですよ、と言いながら人狼伝説の項を開いて見せた。犬とも狼ともつかぬモノがぐにゃりと渦巻く稚拙な挿絵が描かれている]
この村の伝承のひとつのようですね。
ここは風が強いせいか良く伝えられている鎌鼬に「風の音」という要素が付け加えられて狼と結びついたのでしょう。
ええ、よろしいですとも。
[...は本を読みやすいように持ち直すと、ゆっくりとした低い声でホズミをじっ、と見据えながら読み聞かせはじめた]
『今は昔。
ある村で、切り傷を負って死に逝く人が相次いで現れた。
突風が吹いた次の瞬間、村人は息絶えていたのである。
真夜中に風はうなり、まるで狼の遠吠えのようだと言われた。
[一呼吸置くと静寂が訪れる。一息の短い間であったが、囲炉裏の薪が爆ぜる音がやけにはっきりと部屋に響く]
田舎ならどこにでもこの手の話はございます。
ただ…私もここの生まれなのですが、この話は実は先ほど初めて知りました。
語り継がれるうちに話が変化したのでしょう。
祖母が私たちに寝語りしてくれたのは、化け桜の「根牢」のお話でしたから。
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