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― とある大樹の下 ―
[無言のまま、腰を下ろす。
村のはずれの大樹の下。村を見下ろせるなんて気の利いた場所じゃない。ただ、静かな場所だ]
……賭の代金受け取らずにいくなんてな。
[余裕のあることだ。と、わざと呆れたように言って、肩をすくめる。どうせ聞いちゃいないだろうと思うから、悪態も、付き放題だ]
樽って、お前が勝手に言ったんだからな。少ないとか文句言うなよ。
[男は持ってきた瓶の栓を抜くと、中身を地面にこぼした。
半分ほどそうして、残った中身を一口含んだら、残りは栓をして木の根本に置く。
裁判所での短いやりとり。
思い出せば、なぜだか微笑んでしまう]
[確かに人は死んだのに。
死んだ人間さえ見たのに。
まるで現実味がないのだ。
あれが間違いなく事実であったと教えてくれるのは、村人の、自分への視線。耳に届く囁き。それから、仕事量の減少]
[この村で生きていくのは難しくなるだろう。
それはそれで構わないと、男は思う。今後どうするか、どうなるかは、これからのことだから]
あの女さ……
[顰めた顔を思い出しながら言う。
ポケットに両手を突っ込む。
指先に触れた物を指で転がした]
……やっぱいいや。
[言いかけた言葉を濁して、男は笑った**]
― ほんのちょっとだけ、帰り道で ―
[二連敗はしない主義だ。
ドロテアを口説いて出して貰う、そんなときに口にしたかしなかったか。
多分、口にしていたら、唯一の紅一点からつっこまれただろう]
いや、そうでもないか。
[すっかり忘れられているかもしれない。
それくらいが彼女らしい――唯一自分が二敗した相手。
男は笑う、帰り道で**]
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