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― いつかの過去 ―
「境界を暴くために必要なのは?」
[相棒が問えば、店の男性は即刻答えた]
「“見る”ことのできる視界と、時間を正確に測ることのできる時計」
なるほど。
で、この眼鏡と時計があれば条件が揃う、と?
[店の男性は頷いた。
若干胡散臭く思いながらも、ふたりはそれらを購入した]
[持ち主の手を離れてもなお正確に時間を刻む懐中時計を手に、呆然と赤い水が流れる川に視線を彷徨わせていたが]
……うっかり落としちゃっただけかもしれないじゃない。
いや、きっとそうよ。
[根拠もなしにそう決めつければ、気分は少しだけ楽になった]
ただの観光客よ。
この村にはツチノコを探しに……――
[答えかけてから相手を改めてまじまじと見ると、赤い涙を流し、金属バットを装備していた]
……物騒ね。
[率直な感想を述べる声に張りはない。
少女から距離をとりながら、早足で教誨所へ向かおうとする]
/*
この村の半屍人は礼儀がなってる?
いきなり襲ってもいいんだよー どーん、と。
それとも私がなんか襲いづらい動きをしちゃってる?(そわそわ
[「ツチノコを探しに」というのは口からでまかせだから、向こうが干からびた何かをツチノコと呼称しても、さして興味を抱かずに進んでいく]
…………。
[ふと――
思いを馳せるのは“きょうかい”の向こう側]
[渡った先に在るのは、
死者の住まう世界なのか。
人ならざる者の住まう世界なのか。
平行世界の類、という説もあるにはある。
いずれにせよ、一度渡ってしまえば戻ってこられないであろうことは、ふたりの間の固い共通認識だった]
……って、あの子何叫んでるのよ。
[焦燥滲む声と共に、進む速度三割り増し]
[やがて女を追ってきたのは、しかしおまわりさんではなかった]
な……
なによ、あれ。
[恐ろしいものに直面した時の真っ当な反応として、女は凍りついた。
だが、近付いてくる大きな何かが、口から金属片らしきものを吐き出すのを見ると、]
――っ!
[危険に直面した時の真っ当な反応として、即座に逃げた]
[走ってもいっこうに距離が離れない。むしろどんどん縮まっていく]
まさか、この村で真に恐れるべきは、あの生き物――?
[諦念浮かぶ視線の先、教誨所が見えた。
最後の力を振り絞って、走る**]
[かち、かち、――
“境界”の出現する時間、
日の出のちょうど2分前は過ぎ去った。
結果的に、屍人は役目を果たしたと言える。
境界を暴く者達は、時間になっても所定の場所に辿り着けなかったのだから]
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