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[旅慣れしすぎた作家の、
どこか物足りなかった旅情がそそられて、]
祭りの準備も見たいので。
少し休んだら、出歩いてみます。
[眼鏡の奥に僅かばかりの笑みが*浮かんだ*。]
……すごいな、いつ見ても。
[足を止め、微かに響いた鈍い音の方に目を向ける。視線の遥か先には、煙を吐き出す山。思わず感嘆の言葉が口をついた。]
ええっと、さっきのバス停から南にしばらく行くんだよな。
[予約してある若者向けの宿に向かうべく、真昼の太陽のある方へ再び足を運ぶ。]
[──少しだけ感じる違和感。高校の部活の合宿の度に目に入った火の山は、日の沈む方角にあったのだ。**]
[塊のようだった噴煙はやがて形を変え、
午後の風に流されて降灰の予兆を伝える。
広い坂道を降りてきた作家は、
眼鏡を一度はずして確かめる。
――まだ、灰らしき埃はついていない。]
[下る坂道の先には ゆらり 陽炎が立つ。
眼鏡は外したまま、視界はぼやけたまま。
バス停のほうから歩いてきた若者が、
途中の道を南に向かって折れていく。]
そういえば、あちらにも
確か宿泊施設があったか。
[――裸眼で見る幻視。
瞬いて、作家は眼鏡をかけ直す。
旅先の不思議は、儘に受け容れるものだ。
足元に濃く落ちる影は、僅かに伸び始めていた*。]
わ、涼しっ。
[チェックインを済ませて、入った部屋は、よい案配の冷風が流れていた。
背にしたリュックを下ろして備え付けの椅子に腰をかけ、さっきまで日にさらされていた身体の熱を冷ます。]
───この辺を歩くなら、夕方の方がいいよね。
[頬に感じていた火照りが治まった頃、そうぽつりと呟くと、
下ろしたリュックから、古ぼけた本を一冊取り出した。]
『或るとしの春、私は、生まれてはじめて本州北端、津軽半島を凡そ三週間ほどかかって一周したのであるが、───』
[開いたページの文字が目に入ってきた。]
[視線はしかし、そのページに挟まったものに向かう。]
[灯籠があちこちに見える神社と思しき場所に立つ男。
白黒写真の中の彼は、その腕に抱かれた赤ん坊とたぶんお揃いの、黒っぽい甚平を着て、困ったような嬉しそうなかすかな笑みを浮かべていた。]
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ひっそり いらっしゃいませ 愛。
衝動的に建てた村なのに、いろんなかたが
村宣伝してくださっててさらに愛。
バクのご本は太宰治でしょうか。
青空文庫のお世話になろう。
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