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[他に誰か居たか、自身がこの件に関して詫びたのは、長老の指示を待たなかったことと、勝手に長老宛の手紙を読んだことだけ。全てが長老宛。]
後悔は、してない――どうせいつか起こることだから。
[ぽたり、左手から垂れるひとしずく。
レイヨが近づいて来るのもただ気配だけで感じて、告げられた言葉に少しの思案――]
そう――…… 間違えたみたいだな。
[抑揚のない声で落とした言葉はソレ。
傍まで来たレイヨにしか聞こえないくらい小さな声。]
でも、ずっと気になってたから――
終わらない限り、いずれ殺してた、な。
[そこで漸く視線をおろし、レイヨを見つめて]
悪いな、厭な報告させちまって……
お前の立場も、今回の結果も……
[結果を告げるために、まじない師であることを明かさせたことへの詫び。それが嘘の可能性を今は想わない。]
後で、行ってもいいか?
レイヨが、怖くなければ――……。
[赦しを得られなければきっと向かうつもりもなく。
いずれにしても、血を纏ったままではどこへも行かない。]
―― 自身の住まい ――
…師というものを、初めて持った気がする。
[あたたかな部屋。替えの防寒着の袖へ腕を
通しながら、蛇遣いは感慨のままにつぶやく。]
生ける師と、死せる師と。
あたしは恵まれているらしい。
[あたたかくとも、吐息は室内でもやはり白い。
結い髪の下へ手の甲を差し込んで、毛皮の襟元へ
挟まれた髪束をばらりと広げ――背へと垂らす。]
いまは… 死せる師と共にゆこうか。
[蛇遣いが惨劇の場へ留まっていたアルマウェルへ
声をかけたのは――レイヨが>>73場へ戻る前のこと]
…そのいろ。
お前が選んで身につけているのかね、赤マント。
それとも――やはり役目柄というやつなのかな。
[ビャルネを埋めるにしても運ぶにしても、相手は
作業中だろう。蛇遣いは、首元の大蛇を抱きながら
アルマウェルの手元へ視線をあてて低く声を零す。]
ん… なんだな。
見つけてほしそうにみえるんだ。それだけさ。
[右手には、奇妙な球体を螺旋状に下げた飾り杖。
ビャルネの持ちものだったそれを――佇む蛇遣いは
地へつかず、前後の間合いを取る態で携えている。]
このあと、お前は役目があるんだろうがさ。
あたしにはまじない師が誰だかということは
知らせてくれるなよ、頼むから。
――探すべきを間違えたくはない。
あとは、そうだな…
あたしがカウコのようなことを
やらかしそうになったら、止めてくれ。
[知己の名を出す折は、苦い面持ち。横目に見遣り]
止めてくれなくて、後でやらかしたと判ったら…
次はお前へ矛先を向けるかもな。
[―――いつか起こる―――そんな言葉を皮切りに語るカウコを前に、酷く苦い丸薬を舌に乗せた時すらしなかった苦い面持ち。向けられる視線に面持ちをあらため、小さく首を振る]
…臆病な僕に出来る事は少ないです。
[カウコのように誰かを手にかける勇気の無かった事を言外に零し、彼へ伝える義務への想いの片鱗を語る。真偽を口にせぬ彼を見て、眼鏡の奥の眼差しを細めた]
…信じらられる相手がわからずみんなこわいです。
でも叶うなら後で聞かせて下さい。
もし本当に後悔「出来ない」のでなければ…
―――人を殺して後悔のない理由を。
[そのあとは、暫くアルマウェルの作業を見守る。
先刻己がかけた毛皮へ、ビャルネの血染みが浮く…]
…そうして、容易に己を出せぬ使者は。
この村が喰い尽くされてしまったなら
…どこへその知らせを運ぶつもりなのだかな…
[独り言めく呟き。死せる者はもう血を流さない。
生ける者はしろい呼気を風に流して、やがて離れ*]
………折には温かいお茶を煎れます。
[お待ちしてますと言う代わりに肯定を示す言葉を囁き、口にするのは来訪者へいつも出す夏の間に摘んだ森の奥の蒼い木の若芽の茶の事。カウコの腕から伝い落ちた血へ視線を落として、血は乾かぬのだろうかと彼の腕と彼を見る間]
すみません…―――
[断りなのか謝罪なのか囁き、厭われなければ血を落とした彼の手に触れ、血に濡れるのも厭わず握っただろう。触れるとも触れずとも落ちる血に濡れた手を引き、握りこんで軋みそうな所作で小さく頭を下げた]
――さっさと行動してしまう方がおかしいだけだ。
だから臆病とか、寄せ……。
[慰めではない。けれど今はそれしか言わない。
問いは今はゆるく頷いて、来訪の赦しを得たなら一度テントから出ようかと想ったところ掴まれた腕に]
―――っ、……、
……先に、血ぃ、何とかしてくるわ――……
[小さく息を飲む。
声は抑えても掴んだ当人にはビャルネの血でないことはわかっただろうけれど。]
何も、言うな、後で行くから――
[小さな声で添え置き、テントから出て行く]
[――蛇遣いは、長老のテントを訪ねなかった。
惨劇の場へ居合わせたか居合わせなかったか、
記憶に定かでなかったヘイノとラウリを訪ね…
それぞれへ、僅かばかりの差し入れを届けた。
ストーブの上へかけっぱなしだった芋と鱒の塩煮は
食べ頃より少し煮詰まっていて…まあ食えるだろと
常から食に関して大雑把な蛇遣いは言い訳めかす。]
…後で、アルマウェルが来ると思う。
[別れ際に添える意味合いは、それぞれが知る――]
……目立った方がやり易い事が多い、というのはある。
しかし、そうだな、……
[トゥーリッキに返す言葉は、是とも否とも言い切らない、確かな理由は語らないもので。近くから調達してきたスコップで雪を掘りながら。その手に持たれた飾り杖を一瞥し]
知らせるなと言うなら、知らせるまい。
[一つ目の頼みには、すぐに応え]
……嗚呼。
そうしようとしたならば、止めよう。
居合わせられれば、の話だが。
[二つ目にはほんの僅かな間を置いて応える。矛先を向けるかもしれない、などと言われても、顔色は変えず]
……
[スコップの縁に足をかけ、半ば凍ったような雪を掘り進めていく。トゥーリッキの呟きは聞こえたか否か。どちらにしても、淡々と作業に勤しんで。
トゥーリッキが去った後、現れたレイヨには]
……わかった。
その事も共に、伝えに行こう。
[一旦手を止めてその姿を見る。告げられた内容には目を細めてから、頷き、伝達の旨を了承した。
それからまた、作業に戻り――そのうちにビャルネから少々離れた場所に出来上がる、人間が一人入る程度の穴。ビャルネの体を抱え上げると、穴の中にそっと横たえた。その時の男の瞳は、どこか寂しげでも、同時に優しげでもあったか。寒さで既に固まりかけたビャルネの手と手を、胸の上で組み合わせるようにして]
― 自宅 ―
[ビャルネの血がついた上着は床に脱ぎ捨てたまま、包帯を解き、開いた左腕の傷にはアルコールをかけるだけの処置。
自分がつけたものより少し大きくなっているのには苦笑。]
詫びは入れない――今はまだ。
[止まりきらない血はまた少し包帯に染みを作るけど、巻き直せば滴るほどでもない。]
もつんかね、この調子で次にいって。
[時間は限られている――マティアスに使った呪はそろそろ効力を失う頃。]
尽きる前には、居ねぇかな、俺は――。
[疑われて当然の行動だ、と思い返しつつ、着替えて一度だけ大きく息を吐いてから外へ出た。]
[携える書士の杖は、水平に手にして在れば
しゃらとも音を立てることはない。縋らぬ杖。]
"49"、…まだ戻らんかね。
[――やがて訪ねる、マティアスの小屋。
長老のテントへ向かうと別れたきりの彼は不在か、
戸口の厚い引き布越しに、 あん と声がする。]
…
そうだな。奴ではない。
だが腹が減っているというわけか。了解した。
[別段声に出す返答する必要もないことを呟いて、
蛇遣いはマティアスの留守宅へと躊躇わず入りゆく*]
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