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[ゼンジの言葉に、無理矢理思考を停止させて動き出す。]
私、ギンちゃんのことみてきますね。
どこかで道に迷ったのかもしれないし、怪我とかしてるかもしれないし。
[皆の会話から逃げるように急いて、宿舎の外へ]
ギンちゃーん!!
[声を張り上げ、悪戯好きの少年の名を呼ぶ。]
怒ってないから……出ておいでよ……?
[辺りを見回し、顔を曇らせた。
月は見ない。何かを思い出しそうで怖いから。]
[目を閉じていたから最初、耳の奥で聞こえる声かと思った。
けれど、その呼吸に生身の人間がそこにいるのだと思った。
ネギヤも、確かにそこにいると思えたのに。
ぼんやりと、男の顔を確認する。]
飲み込まれ、る……?
[顔をしかめる男に少しだけ頬が緩んだ。
緩んだ拍子に、涙が出そうになって目を見開く。]
だって……ギンちゃんが何かに飲み込まれそうなら……助けに行かないと。
[そう言って、困った顔で首を傾けると、より強い薬屋の言葉が返った。
俺が行くと言う言葉に首を振り俯く。]
……ごめんなさい。
[宿舎へと促す言葉に頷いて、ゆっくり足を*返した*。]
[寝たのか寝ていないのか、自分でもよくわからないうちに宿舎に日が射した。
体を布団から起こし、ゆっくりと身支度を整える。
呆けたような顔のまま、大部屋へ。]
おはよう、ございます。
[室内で腰掛け、疲れた顔で天を仰ぐ男に声をかけた。
その手元の紙を覗き込む。
新しく並ぶ二つの名前。]
ねえ、先生、船は本当は誰も置いていってないんじゃないでしょうか。
この島に取り残された人なんて、いないんじゃないでしょうか?
私たち、ほんとはみんな
[その言葉を口にするとき、小さく震えた。]
とっくに死んでいるんじゃないんですか?
[封筒にはまだ白い紙。広報誌の訃報欄にはまだ空白。]
[窓の外を眺める教師の横顔を、じっと見つめる。
彼が手渡した封筒を、拒絶することなく受け取った。]
この島にはポストはありません。
……私が、生きているなら。
[指に力がこもる。封筒がかさりと鳴った。]
先生、先生は生きていますか……?
[少年の笑顔に首を振る。]
あとでライドウさん……あの髪の長いお兄さんに看て貰うといいわ。
[玄関の向こうに消える背を指す。
重い足取りで出ていく男の目的にはまだ思い当たらない。]
[何も分かっていないように見える少年の問いかけに、教師にしたのと同じ言葉を返すのは躊躇われた。]
そうだね。
私も、あなたも、先生も。
みんな、ここにいるね。
[こうして背を撫でることが出来る。
声も聞こえる。
なのに、何故、彼らは消えてしまったのだろう。]
[少年の背を見送って、再度教師に向き直る。]
小森のおばちゃんも見えるんですか……。
モンペの方は多分……一昨年に亡くなった大石さんかも。
その人たちは見えないけど、私たちにだって、マシロちゃんもギンちゃんもネギヤ君も見えましたよ。
だから、先生一人だけがおかしいって言う訳じゃないと思います。
今も、見えたり声が聞こえたりするんですか?
[問いかけは、おはようの挨拶に遮られる。]
イマリちゃん……おはよう。
[彼女の姿が「見える」ことにほっとして、微笑んだ。]
[「まだ」いる。「まだ」はいつまでだろう。
そんなことを考えて陰った瞳がイマリのお腹から聞こえてくる音に和らいだ。
くすくす笑って、炊事場の方に首を向ける。]
お腹、空いたよね。
私も空いた。
豚汁、まだ残ってるかしら……?
何か食べるもの用意してくるわね。
[言って、炊事場へと歩き出した。
途中、ふと不安になって寝室にしていた部屋を覗き込む。
異人の血を引いた少女は、朝部屋を出た時はよく眠っていた。
彼女は、まだいるだろうか?]
ちーちゃん?
起きた?
ちーちゃん?
[光を浴びて泣く少女に、目を瞬いた。]
何も、感じない……?
[小学校を出たばかりの少女には、この状況は過酷だ。
何も感じないことによって、彼女はその身を守っているのかもしれない。
しがみついて来た少女の、光に透ける髪を撫でた。]
ちーちゃんも、何か思い出したの……?
いけないお願い……?
[祭りの、燃え盛る火を思い出す。
願いは空に届いたろうか。
自分は何を願ったのだろう。
自分の問いに、プレーチェが断片的な言葉を紡ぎだすと、不安げな顔で、その額に手を当てた。
熱は無い。]
お母さん……?
ちーちゃんのお母さんは、もう……。
[亡くなったのだと、聞いたことがあった。
けれどそれをおぼつかない口調の少女の前で口にするのはためらわれた。]
誰にも……。
[いつの間にか部屋に顔を出していた若旦那の言葉に振り向く。]
なぜ、こんなことになってしまったんでしょう。
どうしたらこれは終わるのかしら……。
お母さん、に……?
[その願いは、彼岸をこちらへ呼び寄せるもの。
今さっき自分が口にした、なぜ、と言う言葉が頭の中で響いた。]
それは、お祭りでお願いしたの?
[ぐったりと瞳を閉じる少女の重みを受け止めらながら尋ねた。
空に浮かんでいた三つの月。笑ったのはどれだろう。]
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