──あー、やっぱり昨日と全然雰囲気違うんだ。
[昨晩と同じように、歩きながら辺りに視線を走らせながら]
『そこの坊っちゃん、宝物殿は見たかい?』
[夜店の客引きの呼ばわる声に、顔をそちらに向けると]
?
[眼鏡をかけた男性─同世代ではなく、かといって親の世代にしては若く見える─と目があった。]
あの、なにか……?
[視線がぶつかったのは偶々ではなく、相手が元から自分を見ていたような気がした。**]
あ、いえ、別にその……。
[すまない、と詫び言をいわれてしまった。
因縁をつけてしまったように思われたかと、少々困ってしまう。
──が。]
思い出の、なかに、ですか?
[あまりにも予想外な言葉が続いた。
思わず相手の顔をまじまじと見つめる。]
それは、今のこの僕?それとも──
そう問いかけた相手の顔に、何か見覚えがあるような気がして。
……ああ、ごめんなさい。変な突っ込み方をしちゃった。
[相手の顔から視線を外して、ぺこりと頭を下げた。
この人は、多分土地の人でも近隣の県の人でもないのだろう。
そう、さっきの相手の言葉を思い出しながら考える。**]
──「思い出屋」?
[説明するような男性の口調だったが、いかんせん意味が。
屋号なのか業種なのか]
いか焼き・福引き・お面売り……
[何かが心に引っかかる。]
[ウエストバッグを探って、財布を取り出す。]
お目当ては何かあるんですか?
[誘ってくれた人の後ろにつきながら、そう声をかけた。]
[アセチレンランプと灯籠の明かりに、つやつやとした色白な顔の福引き屋の笑顔が浮かぶ。]
……美味しそうだ。
[店主の食べているのは、たぶん隣の店の売り物。]
シツジの学習帳ですかぁ。二本以上当たるなら僕も欲しいかも。
[製造元こそあまりメジャーではないが、なかなか使い勝手の良いノートである。]
もしかして、学校の先生ですか?
[そう尋ねる横を誰かが通り過ぎていった。]
んー、そういえばつまみ食いって美味しいですよね。
[思わず、くすっと笑ってしまった。]
当たりますように。
[先客の背中にそう声をかけた。
にんまりと笑みを浮かべた主がかけた言葉は聞こえない。]
「 ガランガラン コトン 」
……あ。
[転がり落ちた小さな玉を見て、福々しい男が取り出したのは細長い箱──たぶん中身は鉛筆──。]
ノート、だめでしたね。
[鉛筆1ダースを手にした男に声をかけた。]
へえ、作家をしてらっしゃるんですか。
[男の返事に、目を丸くする。
脳裏に浮かんだのは、この人が、鉛筆を手に原稿用紙と眼鏡越しににらめっこする、そんな光景。]
ノートが当たったら、半分こしましょう?
[言って、福引きの器械の前に立つ。]
「 ガラガラン コトリ 」
[白く丸いものが転がった。]
ええっと……4等?
『はいよ、坊ちゃん。』
[手渡されたのは、大きめな布製の筆入れで。]
『──ふむ、そろそろかな?』
[立ち去り際、福引き屋がそう呟いたのが聞こえたような気がした。**]