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―― 森の中 ――
なんですか? それは。
[いつものように散歩へ出かけた帰り道。
さっと雨雲が掛かるかのように目の前に現れた人影に、柔くも棘が潜んだ声を上げる]
えぇ、仰る通り出入りはしていますけど、だからってそんな…。
[反論する言葉もむなしく、突き付けられた封書に成す術もなく]
……、
[行き先を告げられるまま、静かにうなづくしかない。]
雨が、ふりそう。
お姉ちゃまの言葉、ちゃんと聞いておくべきだったわ。
[暖かさがが一転、冷たさを帯びた風が髪を浚う。
指定された場所を思えば、姉や母が少なくとも巻き込まれていることは明らかで。
悲しみや途方に暮れる思いで眦は赤く染まる。]
ホズミちゃん、無事かな…。
それにンガムラさんも…。
[押し付けられた封書はまだ見ぬまま。
こぼす、好意を懐くものの名を。]
し、しっかりしないと。
わたしも疑われているって、お姉ちゃまに悟られてしまうわ。
[沈んでいく気持ちを奮い立たせるかのように、頬を数回叩き。森の外へ。
やがて緑色の色彩から解放された視界に、村医者の姿を見つけたなら。
幾許か診療時に晒す、素肌の恥ずかしさを思い出し、頬を赤く染めながらも会釈は*忘れずに*]
[村医者に顔の赤みを指摘され]
その説はありがとうございました。
か、風邪はもう大丈夫…
[隠し仕草で深々と頭を下げる。
消える語尾は新たな誤解を生むやも、気付く筈もなく。]
や、ど?
[聞き慣れた筈も違和感溢れる行き先に、はっと頭を上げまばたきひとつ。]
わたくしで宜しければ、ご一緒に。
[同伴を申し出る言葉を紡ぐ頃には、いつもの柔い笑みを眦に浮かべ、隣へ歩み出た*]
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