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[はぐれないように、姉の手をしっかりと握って。
また一つ夜を迎えると、吸い寄せられる魂があるのだろうか。]
七五三以来?
そっかもうそんな前になっちゃうのね。
[日ごと美しさを増す姉。化粧を施してもおぼこな自分。
大人になりたくても近づけないもどかしさが、胸の中でちりりと熱を上げる。
嗚呼、自分も姉のようにおとなだったら。あの人は振り向いてくれるだろうかと。]
でも、お姉ちゃまには敵わないもの…。
[「赤が映える」
微笑みで更に美しさが増す、姉に懐く思いは嫉妬。
指先でなぞる軌跡に戸惑いが零れ落ちる。
滴る深紅は、それさえも姉の美しさを引き立てるかのようで。]
――ねぇ、お姉ちゃま。
おとこのひとは、赤い色が似あうおんなのひとが、好きになるの?
わたしも、お姉ちゃまみたいに赤い色を流したら。
あの人が振り向いてくれる?
[悔し紛れに訪ねる問いとて、やはりおぼこさは*拭い去れず*]
[死化粧を施された姿を、どれくらいの時間眺めていたのだろう。
彼が化粧の職を生業としていると聞いた頃から、わたしには胸に小さな夢が広がった。
――彼に紅をひいて欲しい。
たとえ生業の延長でもいい。
ひとときだけ、彼の意識を一身に受けられるのなら。
彼の瞳に見つめられるのなら。
この後どんなことが訪れようとも。
その想い出だけを胸に生きて行けるだろうと。]
[彼を初めて意識をしたのは、まだ齢6つも行かぬ頃。
姉の後ろに隠れてばかりのわたしに、柔らかく微笑む姿に幼いながらも心惹かれた。
足許もまだおぼつかないわたしに、いつも歩調をあわせてくれた。あやとり、おはじき、紙手鞠。外で遊びたい盛りだろうに、いつもわたしのわがままを優先してくれた。
ままごとで差し出したとても食すものとは思えない草花だって、きちんと食事に見立てて美味しいと頷いてくれた。]
[後に耳にした大人の話で、
当時は相当大変な時期にもかかわらず、
そんな素振りも見せず、
わたしに気を使ってくれていたと知った時。
なん馬鹿なことを強要したのだろうと、とても恥ずかしくなった。
それでも彼は変わらず、駆け寄るわたしを見ては、柔い声で呼んでくれた。
「ツキハナちゃん」と。]
[妹のように思われていたことは、
早くから知っていた。
だけど彼を思えば思うほど、
揺らぐ気持ちは溢れ出しそうで。
村から出て行った後も何度も手紙を出そうと筆を取り、
ため息交じりに置いた。
もう、彼だって大人。
素敵な女性を見つけているだろう。そう思って。]
[あの日、自警団に呼び止められた日。
わたしは密かに人狼へこの身を捧げようと森へ向かっていた。
彼らの噂はかねてから聞いていた。
それならば。
自ら生贄になろうとて悪くはないだろう。
あとひと月かそこらで、わたしの生きる意味は終わる。
ならこの気持ちを懐いたままで。
誰にも穢されぬことなく死しても変わりないと思うから。]
――それでもやっぱり…
[熱のない頬。感触のない肌。
愛おしい指で触れられているのは、亡骸でしかないけれども。]
ずっと、ずっと。 兼雄さんの事が好きでした。
[言わずには居られない。
たとえ、もうすでに声が*届かなくても*]
[幼い頬に走る朱い線は何を誘うのか。
姉から差しのべられた指輪をはめた手を、空にかざして――]
わぁ、きれい!
[歓声をあげる声は、幼いままに。]
ねぇ、おねえちゃま。
[死装束に染まる朱を眺めつつ、幼子は無邪気に語る。]
あっちでかみさまが、*手招きしているよ?*
[よみのじかん。
これからの道は一人で歩まなければならない。]
だ、大丈夫かしら。
[不安に思う気持ちが、衣擦れと共に落ちていく。
一歩踏み出す足許。揺れる黒髪に差したかんざし。
そこにはかつての思い出と、淡い願いが込められていて*]
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