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―弓道場―
[バン――ッ
大きな音が弓道場を包む。周囲にいた数人の生徒からは、おお、と感嘆の声が。
そう、今しがた放たれた矢は、見事中心に近い位置に刺さったのだった。
だがその隣には、惜しくも的に当たらず、土に突き刺さった状態の矢があった。
寺崎はゆっくりと弓を下ろすと、こちらを見ている部員の方を振り返り口を開く。]
さて……。
さっきの君と、今の僕の動き。どこが違ったかな。
[直ぐに答えを言って教えるのではなく、相手が思考を巡らせるように指導するのが寺崎のやり方だった。相手に、腕の角度が悪かったのだと気付かせるため、次期主将の彼が手本を見せていたのである。
後輩の男子生徒―1本目の矢を放った部員―から、想定していた通りの回答を聞くと、寺崎はその部員の肩に手を置き、にっと笑って見せた。]
よーし。分かったならもう一度。
感覚は自分で掴むしかないからなっ。
[そう告げると後ろに下がり、成り行きを見守る事にした。]
[練習を重ねる間に、土曜の午後は過ぎて行く。
チャイムが鳴ったのを区切りに練習を止め、自前の弓を専用の袋に入れて片付ける。
高校指定のジャージに着替えてから、弓を左手に持ち、弓道場を後にした。
廊下を歩くと、土曜なのに制服姿の生徒が多い事に気付く。
普段は部活動の生徒しか居ないはずだし…。一瞬考え込んでしまったが、思い出した。]
…ああ、隣のクラスが補習だった。
それで人が多かったのか。
[行き交う生徒を見て自己解決。
部活を終えた今、学校には特に用事も無いし…と、教室の前を通り抜けて玄関へ向かう。]
―玄関前―
[そこで、制服姿では無い女生徒の姿を見つけた。
明らかに体育系の部員ではなさそうだし、私服のままの彼女を不思議に思い、やや離れたところから声をかけてみる。]
えーと……、村瀬さん…?
部活やりに来た感じじゃないけど…忘れ物でもした?
[村瀬六花。普段はあまり接点の無い人物だ。
1年時にクラスが同じだったが今は違うし、久しぶりに話しかけたような気がする。]
おー。名前覚えててくれてた。
[六花に下の名前で呼ばれ、笑顔を返す。]
…なるほどね、村瀬さんは補習組かぁ。
ん?僕は部活やってたよ。
[これだよ、と左手にあった弓を少しだけ動かしてみせる。]
あ、ねね。職員室行くなら、これ届けてもらってもいい?
来た時に、玄関で拾ったのすっかり忘れてた。
[あちゃー、という表情をしながら、ごそごそと鞄から取り出したのは[櫻木 ナオ]の名前が書かれた生徒手帳だった。]
…いや、用事を押しつけるのは良くないか。
ごめん、やっぱ自分で届けに行くよ。
[向かう先は同じということで、一緒に先生のところへ行こうと、六花に向かっておいでおいでと手を動かした。]
―廊下―
[職員室へ向かっていると、補習が終わって帰ろうとする生徒達とすれ違う。目前から歩いてきた二人に六花が駆け寄って行き、後から寺崎も合流した。
寺崎は臣哉に対して軽く手を上げ、よっと挨拶をする。そして、その隣にいた櫻木に視線を移して]
櫻木さん、丁度よかった。
[はいこれ。と言って差し出したのは生徒手帳。]
午前中に玄関付近で拾ったんだ。
今、村瀬さんと職員室に行って、届けようとしてたとこ。
……珍しい組み合わせだな、お互いに。
[櫻木に落し物を手渡した後、改めて臣哉の方を向いてぽつりと感想を漏らす。
弓槻は少々人見知りをする部分があるが、寺崎はそんな事は気にせずに昔から接している。星が好きで天文部に所属している事くらいは把握していた。]
二人とも補習?
って、シンヤは違いそうだな。屋上か…?
で、松柏駅がどうのって…
[これから利用しようとしてた駅名が引っかかり、六花の問いかけへの答えを、寺崎も聞く事にした。]
[人見知りは克服したよと笑む弓槻は、確かに前とは雰囲気が変わったようだ。
寺崎は、その様子に安堵するような視線を返した。]
へぇ。それは良かった。
…って、部活動の様子、シンヤに見られてたのか。
屋上からの眺めは良さそうだね。今度天文部にお邪魔させてよ。
[軽い調子で言葉を交わしつつ、櫻木から偽汽車の件を聞いて、どこかで聞いたような…と思考を巡らす。]
偽汽車…
ああ。塾の生徒達が何か言ってた、そういえば。
[あれは3日前だっただろうか。
輪の中に入りはしなかったが、塾講師の近藤に、詰め寄っていた子がいたなぁなどと思い出す。
行くかどうかと聞かれ、ううんと悩んでいると、横に居た六花はすでに行く気になっていた。]
僕はどうするかな…噂話は少し気になるけど。
明日は県外で弓道の練習試合があってさ。
朝早いから、松柏駅使って、今夜中に親戚の家に行くつもりなんだよ。
遅い時間に集まるんだったら、そこで会えるかも。
[その噂話の検証に参加するかどうかについては言葉を濁しつつ。
あれこれと話している間に、須藤先生が通りかかった。
宿題の件に、なぜか自分の名前を出されて、恨めしげに先生を見やる。]
…須藤先生、そんな事言ったら、結局全部僕が解く羽目になりそうで怖いんですけど…っ。
こらそこ、喜ぶなって。
[無邪気にはしゃぐ六花に、やれやれといった表情。
1年の頃、彼女はやや幼く感じる言動ゆえにクラスで目立っていた。しかし、寺崎はそんな彼女を厭忌する事は無く普通に接していたし、先生の中でその印象が強いという事は感じていた。
次第に話はズレていき、課長ごっこの話へと――]
ちょぉ、シンヤも悪乗りしない!こんな上司いやだ…。
…っと、僕は先に帰って支度してこなきゃ。
着替えて荷物もまとめなきゃだし。
これから皆で松柏駅に向かうんならまた会えそうだな。
じゃ、また後でー
[当初の目的であった落し物も、無事本人に渡すことが出来たし、六花も先生に会う事が出来たし。
とりあえずは家に帰って、松柏駅へと向かう準備をしようと、その場にいた3人に別れを告げ、学校を後にする。]
―自宅―
[一度自宅に戻ってから、再び出掛けるための準備をし始めた。
明日行われる練習試合は、高校生だけではなく、大学生や社会人も来る。上を目指したい寺崎にとって、月に一度のこの試合は非常に有益なものだった。
自宅から行くには遠いため、施設の近くにある祖父母の家へ前日に行くというのが習慣だったのだ。
そこで使うのが松柏駅であった。]
偽汽車ね…。誰が噂を流し始めたのやら。
…よしっ。1泊だしこんなもんだな。
[大きめのバッグに、タオルやら着替えやらを詰め込み終えると満足げに頷いた。
忘れぬよう、弓と矢筒も所持し、「行ってきます」とリビングにいる親に声をかけ玄関を出る。
外は暗くて、少しの肌寒さを感じた。]
―公園前―
[松柏駅に繋がる道の途中には公園があった。
薄明かりの中に人影を発見し、目を細めて見てみると、そこに居たのは近藤先生だった。
寺崎は声をかけながら、近づいて行く。]
…あれ、先生。
やっぱり行くんですか?
[近藤の周囲を見渡してみるが、あの時、あれこれと騒いでいた他の生徒達は一緒ではないようだ。
何をしてるのかと問われたなら、大ざっぱに明日の予定を話すだろう**]
[この時間に松柏駅へ向かっているとなれば、やっぱり噂の件と思われるのも自然だった。]
まあ、噂話が気にならないって言ったら嘘ですけど。
[少なくはない人数が口にする噂であったし、学校で聞いたばかりでもあったので、興味はあった。オカルトが好きとかそういう感じではないのだが。]
近藤先生は優しすぎるんですよ。
塾の人達が行くって話は…僕は聞いてないっすね。
学校では、同級生達が行くって騒いでたけど…。
[近藤から目を逸らし、先程話していた彼らが来るかもしれないと、道路の方へ目をやった。]
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