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[村瀬が決定を告げ、鷹野が4号車を後にするのを見送る。向かう先には椎名もいるはず。少しの間、別の場所に居てもらうだけだ――そう思いながら。
あまり休息を取らずに居たためか、視界が霞んできてしまったらしい。
彼女の姿はもちろん、周囲の姿も判然とせず。眼鏡を外して、眉間に手を当てた。
――そうだ、思い返せば、今日は昼前から暗くなる手前辺りまで部活をやっていたし、深夜に訳の分からない出来事に巻き込まれて。
駅を目指そうとした時に、公園の隣から聞こえてきた、あの能天気そうな女生徒の声は。
時刻を確認する声…あれは、間違いなく鷹野さんだった。]
……興味本位で、都市伝説の噂を確かめる…だっけ。
そんな思いで集まるから――こういう事になるんだ。
[自分は巻き込まれたのだ、と。
偽汽車の噂を確かめるというお気楽な考えに、巻き添えにされたのだ、と。
呟く黒い感情は、一つ洩らせば、それは次第に心を蝕む種となり。
矛先は―――鷹野へと向いた。]
気付いた時には、寺崎の脚は別の車両へと移った鷹野を追っていた。
酷い頭痛がする。夢を見ているような感覚のまま、追いついた鷹野の肩を掴む。]
君の所為で、君達の所為で――僕は巻き込まれたんだ。
明日には大事な試合があるんだ。こんなとこ、早く出なきゃいけないのに…っ!
鷹野さんっ、謝れよっ、謝れっっ!
[感情の向くままにどなり声を浴びせる。彼女が何かを言っているようだが、よく聞こえない。次第に苛立ちが募り、手に力が込められていく。
やがて――ぷつんと糸が切れるように、壁に押し当てるような体勢になっていた鷹野の力が抜けるのを感じた。]
おい、まだ謝罪の言葉は…っ!
――――ッ
[その時に夢から醒めるのだ。
鷹野の首元には、自分の指の跡が残っていて――苦しげな表情のまま事切れた彼女は、力無く床にその身を預け、あらぬ方向に視線を向けていた。]
[自分がやったのだと、理解するのを脳が拒む。
早くこの場を離れなければ―――。
ごめん、と何度も小さく呟きながら、元の車両へと足を向かわせる。
すれ違いざまに、鷹野の姿を追って来たのであろう小鳥遊の姿に気付いた。その様相は異様としか言えない。
手にしているのは、糸切り挟―――?]
先生…?何を……する気ですか。
[そんな声かけなど気にした様子も無く、小鳥遊は真っ直ぐに向かって行ってしまった。
やがて4号車の座席に着き、今起こった事を忘れようと、目を瞑るのだった**]
―回想―
[「ただいまぁ」という軽やかな口調が夢うつつの内に耳に入るが、そちらを振り向く事はしない。
あの記憶は――鷹野を殺してしまったのは、現実に起きた事なのだろうか。
人が目の前で死ぬ場面を、二度も見てしまったのだ。短時間の内に。だから悪い想像が幻影となって、脳裏を過っただけなのではないだろうか。
そもそも、自分はこの位置から動いたのか―――?
もしこれが本当だとしたら、現実離れしすぎている。
それを周りに確認することが出来れば、ただの妄想だったのだと信じる事が出来るだろう。だけど、自分の様子を他の誰かに確認する事が、怖い。
何故か、って――鷹野に触れた時の感覚が、消えないから。
そんな思考が寺崎の心を責めさいなんでいた。
目は瞑ったままだったが、誰かが近寄ってくる気配を感じる。頭に触れてくる手と、掛けられる「お疲れ様」の言葉に、何故だか少しだけ救われたような気がした。]
―回想:終―
[ふっと目を開けると、その場には全員が揃っていて――隠し切れないほどの鮮血を浴びている小鳥遊が目に入る。何があったのかは、触れてはならない事だと直感し、極力視界に入らないよう努めることにした。
そして、これまでの事を確認して行く。]
二宮さんや近藤先生みたく、火の玉に襲われる人は居なかったのか。
[辺りを改めて見回して、別の車両へと行ったはずの鷹野を除けば、先程までと面子に変化が無かった事に安堵する。]
で、二人とも見た先はそれぞれが潔白。
…村瀬さんには、また鷹野さんの声が…?鬼じゃない…のか。
[未だに村瀬の力というのが分からない。だけど、手がかりを掴む為に、情報としてそれを記憶する。彼女の言う事が本当ならば、鬼の数は減ってない事になる。
位置はかなり絞られてきているはず。だから、全員をもう一度しっかりと見なくては。]
まだ見てもらっていないのは、僕と須藤先生と成瀬さんの3人…。
判断を下すなら、僕も3人の中からで良いと思う。
見分けれるっていう二人だけど、これは小鳥遊先生が言ってるような事を、僕も考えてた。
…シンヤが、あまり皆の印象を口にしないのが引っかかっていてさ。信じてやりたいんだけど、長澤君の方が真剣に鬼を探そうとしてるように感じてる。
隣に行ってもらいたい人の希望を出していないっていうのが、鬼かもしれない人に票を入れたくなかったんじゃないかって思えてしまって…。
僕は二人の中に鬼は居ないと思ってる。だから、判断するのは僕を含む3人からで構わないな、と。
[話している間、弓槻とは目を合わせられずにいた。]
[一呼吸を挟んでから、もう一つの話題についてを]
三枝さんの提案も聞いた。
守る手っていう存在は信じられないんだけどさ…。
もしそんな力があるやつが居たとして、今出る場合は、占われて無い人から順番に宣言していくのがいいんじゃないかな。
櫻木さんだけは宣言しないで、それこそ投票したらいいと思う。
隠して投票するくらいなら、名乗り出てもらった方が、とりあえずはその人の事を省いて考える事が出来るだろうし、皆の思考も多少はクリアに出来る気がする。
だから、僕は名乗り出る方がいいと思うよ。
ああー…うん、そういう事になっちゃうか。
[村瀬からの指摘を受け、そういえばと気付く。
軽く頭を撫でられた事には、はにかみながら笑顔を返し――]
あはは、ありがとう。
村瀬さんに励まされちゃったな。
[しっかりしなくては、と自分に言い聞かせた。]
[やがて成瀬と須藤が順に力のことについて話しだす。
自分にも、そんな力は――]
僕も、力は持ってないよ。
[そう宣言し、三枝と小鳥遊の方を見る。]
―回想―
[全員が宣言を終え、最後に櫻木が話し始めるのを聞く。状況で考えると村瀬と同じだ。一人しか名乗り出なかったのだから、持っていると言う力自体は疑わしげでも、話している本人が嘘を言っているようには思えなかった。]
そっか…。
なら、隠れてもらったままの方が良かったのかな…。
順に提案していくって案を出したのも、もしかしたらって思ったのが小鳥遊先生だったからなんだ。
僕の目線で、小鳥遊先生が掴み切れて無くて。目線が随分と鬼寄りだなと感じてるのも、なんかの力があるからかなと思って、一旦考え直せたらとか考えてた。
[その時、弓槻の様子が一変する。確かに目の前に居る人物は弓槻に違いない。――はずなのに、それは別人の仕草だった。
戸惑いながらも、立ち上がった勢いで彼に声を]
シンヤ…っ!何言ってるんだ、目を覚ませって―――!
[しかし、彼が口にする「ヒトゴロシ」というワードに身体が固まる。弓槻に掴みかかろうと一歩を踏み出そうとする事が、出来ない。
そして、あろうことか名指しで殺してもらいたい、などと――]
んな事、出来る訳ないだろ!?
やめてくれよ、もう…やめてくれっ!元のシンヤに戻ってくれよ…!
[豹変と言うのはこういう事を指すのだろうか。こちらを覗き込む友の表情に対して、困惑と嫌悪感がない交ぜになった感情が渦を巻く。
はっとした時には、すでに村瀬が動いていた。その様子を見て、どんな言葉を投げても弓槻にはもう届かないのだろうと悟る。立ち去ろうとする弓槻から視線を外し、額に手をあてながら、どさりとシートに体重を預けた。]
あはは…、おかしいよな、皆。物騒な事ばっか言ってさぁ…。
…気が変になりそうだ。
[いつになったら、この悪夢から解放されるのだろう―――。]
―回想:終―
[弓槻の姿がこの場から消えて、どのくらいの時間が過ぎたかは分からない。幾分かは心に整理をつける事が出来た頃、ようやく口を開くことが出来た。]
…やっぱりさ…シンヤの事はショックなんだけど…、
もし鬼だったとしたら、補佐役っての?本当に存在するかは分からないけど、それっていま何してるんだろう、って思うんだ。
いや、ただ僕らが惑わされてるだけかもしれないけど。
だから、まずは長澤君が見ていない人の中から候補を出すべきだと思う。
…櫻木さんが名乗ってしまったのは拙いかなと思ったけど、長澤君と三枝さんは疑わなくていいって情報は大きいか。
残る鬼は二人で、シンヤがそれとは思えないから、考えるべきなのは繋がってる部分がどこかって事だな。
成瀬さんと須藤先生、須藤先生と小鳥遊先生、小鳥遊先生と成瀬さん。
とりあえず、僕視点だとこの組み合わせになるのか…。
[言いつつ、その3人を見回して]
[レコーダーで少し前の言葉を確認する。弓槻の言葉も再生されてしまうのが、少し辛いのだけど。
小鳥遊の言葉のところでそれを止め]
小鳥遊先生が、シンヤに対して、「あの言動が場を霍乱する心算のものだったのなら完全に失敗よ」と言ったのは何故ですか?
どうして失敗だと思ったのか、そのあたりの考えを聞いてみたいのと…、僕が力を持っていそうだって思ったのはどの辺で、ですか?
[次に視線は須藤へと]
須藤先生は、最初に「占い方法は二人で同じ者相手でもいいんじゃないか」って言ってましたが、なんでそう考えたんですか?
あと…三枝さんが話してた、「須藤先生と梨羽ちゃんは、お互いにかばい合っている風に見えた」っていう意見について、どんな感想を抱いてるのかも知りたいです。
[順に質問していき、最後に成瀬の方に視線を向ける。]
成瀬さん。
「須藤先生に賛成かな」って言ってた部分、具体的にはどの辺の…どの言葉に賛成だったの?
それと、櫻木さんが名乗ってたけどさ…成瀬さんは誰が名乗りそうだって思ってたか聞いてもいいかな。
ああ、これは須藤先生にも聞いときたいな。
[そこまで話すと、手にしていたボイスレコーダーを元の位置へと戻し、再び考え込むのだった**]
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