[夜が明ける。元々閉塞的な造りの建物にも、朝の光は薄らと入り込み]
……ん。
[閉じていた目を開き、椅子を揺らす。
小さな欠伸と、伸び。椅子ごと後ろに倒れかけて、はっと、何とか均衡を保ち]
[深呼吸をする。ぴくり、と指を強張らせ、すぐに弛緩させた。代わりに瞳へ浮かぶ、緊張のような、しかしどこか遠くを見るようでもある色が浮かび]
……。
[部屋をふらと歩く。アンの眠る部屋を開き、
それを、見た。]
[紅く染まったベッド、その上にいるのは。その上に、ある、のは。紛れもない、アンの死体。無残な様の、]
……ああ。成る程。
人狼に食べられたのかぁ。
[けれど男の口から出たのは、落ち着いた、状況を確認するような言葉だった]
窯神様のお呼び出し、ね。
はいはい、成る程。
あの眠気も、道理で、だ。
[窯神様の「力」のせいか、この部屋でもまだ眠っている姿を一瞥し]
ヒトを、捧げよ……
お告げ、ならもっとわかりやすく伝えてくれればいいのになぁ。
まー、お告げなんてそんなものかな?
十分わかりやすい、かもねー。
[声色は尚、冗談でも言うよう]
何にしても……
儀式なら、円滑に進めないと。
何より、「人狼」が狩り出したなら……
……わ、ないと。
[一部の言葉は溶けるように。紅い包みの飴を取り出しては、同じく紅い飴を摘み出し、ふとアンの口へ持っていこうとして]
……流石に疑われちゃうか。
[思い直し、自分の口へと運ぶ。口内でころりと飴を転がしながら、ベッドより数歩離れ]
夢じゃないよ。
[起き出したバクに気付くと、其方に顔を向け、はっきりと、だが重い調子ではなく告げる]
「告げた」少女が殺されたんだ。
人狼の手によってね。
[ポルテの方も見ると、そう続けて]
人狼は御伽噺の存在じゃない。
見てわかる通り、本当に存在するんだよ。
窯神様が保護した女児、人狼の始まり……
村が終わって十三年後の今、何故急に「人狼」の「狩り」が起こったのか?
こうして集められた事と、関係があるようだけど。
[半ば独り言のように連ね]
……「儀式」、なのかなぁ。
[ぽつりと呟き、物音に隣の部屋の方を見た]
――ヒトを捧げよ。
この少女が言った言葉が、窯神様の「お告げ」ならば。
窯神様は、何を望んでいるんだろうね?
わたしは直接儀式に出た事はないのだけど。
[ヂグの声に、其方を見つつ頷いて]
大丈夫?
[ポルテの様子に、心配するような言葉をかけ。胡散臭い、というのには]
そうかもねー。
[言って小さく笑う。ビセが訪れれば、ひらと手を振り]
うん、そう。
父さんから話は聞いていたからね。
儀式は…… 一人か二人ずつ、「消えて」いくものだと。
[ヂグに答え、最後は曖昧に、呟くように。アンの方をふと見遣り、口端へ歪んだ笑みを浮かべたが、ほんの一瞬の事で、誰にも見られなかっただろう]
おはよう。そうだよ、そうらしい。
血なんかが苦手なら、あまり見ない方がいいかもねー。
[ビゼにかける言葉は、至極軽く。まるで普段通りのそれ。ぼりぼりと、飴を噛む音が*響き*]
相も変わらず元気で頑固だよ。
うん、飴屋になると言った時はすごい剣幕で反対された。
最後は怒り疲れたのか、呆れたみたいに「勝手にしろ」と言われて。
[父親についてヂグに答えてから、村に関する話には]
神の心なんて人間には理解しきれないさ。
村が寂れたのは……
[ふ、と言葉を途切れさせ]
逃れられない運命。
……逃れなければならないもの、なのかなぁ。
[最後は微かに、独りごち]
[広間に着くと、椅子の下に置きっ放しにしていたスーツケースを取り、中から飴の袋や、板チョコ、チューイングガムなど出して近くの机の上に置き]
良かったら皆で食べてねー。
[ヂグに向けてかそう言いながら、自分用だろうチョコスナックの袋を取り出して]
わたしはちょっとその辺を散歩してくるよ。
[スーツケースを机の下に置き、唐突ながらも何気なく。それに視線や反応があれば]
大丈夫、別に逃げたりするわけじゃないから。
逃げようとしたって、逃げられないだろうけどねー。
[そんな事を言い残し。チョコスナックを食べつつ建物の外へ、散歩に*出かけた*]
― 外・建物の周辺 ―
[チョコスナックの空き袋を畳んで帯の隙間にしまう。手を重ねて腕を上に、うーんと一度伸びをして]
んー、……晴れてるなぁ。
雲一つない天気、とはいかないけど。
[空を見上げ、煉瓦の建物を振り向く。煙突から吐かれる黒い煙、目を細めて]
と……
[響いた音に足元を見下ろす。小石でてこのようになっていたのか、綺麗に折れた木の枝。
かけられる声に顔を上げ、フユキの姿と、その手に抱えられたバクの姿を認め]
おや。フユキ君。
おはよう……と、いうには遅いかな。
散歩かい?
[何気ない風の挨拶と、問いかけ。バクについては聞かず、ふ、と小さく笑い]
そうなんだ。
まー、子供だし、結構ショック受けてたみたいだったからねー。
早めに眠っちゃっても仕方ないかなぁ。
[説明には改めてバクを見つつ]
ああ、うん。そうかもしれない。
これで割と白状な人間なだからねー。
[冗談のように返し。
まだ、という言葉に、何かを言う事はなく]
それも白状な人間だからだよ。
多分、ね。
窯に放り込まれたら? ――それは、あまり芳しくないねー。
わたしは……生贄になるよりは、人狼に食べられる方がいいなぁ。
まー、それが「必要」な時なら、また別の話だけど。
[軽くも、含みを持った言葉。
フユキに続いて建物へ入り。ベッドに寝かされるバクを、少し離れたところから見]
そうかな? 案外辛かったりするかもしれないよ?
……そうだったら、甘党としては名が廃る思いだけど。
うん、きっと甘いよ。
[取り出された飴を見遣り、紡がれる言葉に]
じゃあ、食べる気になったら――
[声は曖昧に、溶けるように途切れ。口元を押さえ、一つ欠伸をし]
……そろそろ眠いみたい。
部屋から……そうだね、そうする事にしよう。
[促されるままに部屋を出てから、一度、フユキと、奥のベッドに眠るバクとを見]
お休み。
[一言を残し、別の人がいない部屋へと移動する。隅の椅子に腰を下ろすと、程無くして静かに寝息を*立て始めた*]