[音楽室。白川清次(しらかわ せいじ)は、削ったばかりのリードを日に透かしていた。出来栄えに満足するとひとつひとつ丁寧に箱にしまい鞄に入れると部屋を後にした]
毅さんの店が開くまでまだあるな。
教室は進学組のやつらの邪魔になるだろうし。
喫茶店で時間でも潰すか。
[有り金を確かめようとポケットの財布を探ると、紙が手に触れる。取り出してみると]
肝試し?
そう言えば誘われてたっけな。
[くしゃりと丸めて屑篭に放り込もうとして、思い直して手を止める]
たまには良いか。……最後の夏だしな。
[開け放した廊下の窓から熱気と蝉の声が溢れてくる。狐塚の一本杉を越えて高くそびえる入道雲を目を細めて見上げた]