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……。
こう落ちてくるものが多いと、おちおち寝られんな。
[帽子が動き、その下から顔が覗いた。
精悍な男とはとても呼べぬ、童子のようだ――己をからかった同僚がどうしているかは、最早あずかり知らぬ所ではない。
ばらばらと降る瓦礫の滓を不快そうにねめつけ、重い腰を起こした]
まったく、世も末だ。
いや、既に末ですらなく、終わっているのか……。
[呟いた声は空虚に溶けて]
ッ――
[懐から、小振りのナイフを2本、抜き払う。
短く鋭く息を吐き、身を低くして、世間知らずな少年の胴目掛けてナイフを投擲する]
うーん、覚えていないよ。
でも、無意味に殺したりはしない。他の人は知らないけど。
おじさんの大切な人は、殺されたの?
殺した人が見つかったら、おじさんはどうするの?
[外が騒がしいが、今は目の前の人間に興味を示している。]
おじさん、強そうに見えないけど。
そういえば、先ほどのアレは何だったのだ?
まあ、こんなご時世――叫ぶモノもあらんや、か。
[叫び声について考えを巡らせていた。
生く宛も、行く宛も定めぬままに流れている。
自然と叫び声の方へと足を向けたが]
――はてさて、他には何が在ることやら。
[口元が、歪んだ]
え、なに?
[強そうに見えないおじさんが、身を低くしたかと思うと、ナイフを投げてきた。
この人、お腹空いてなさそうなのに…]
いたっ!
[ナイフは、身体を反らせて避けようとしたが、外套がじゃまして、尻餅をついて倒れてしまう。
ナイフは、乾いた音を立てて壁にぶつかった。]
何するんだよう、人殺し?
[崩落したビルから少し離れた場所。
彫像の残骸のようなものを、軽く足先で踏み付ける。
如何なる芸術家の作品か、それに興味を示す者は既にない]
……ん、
[しばらくはそこから崩落した建物の方向を見ていたが、ふと視線を感じて振り返る]
『おお……天使様……』
[それはむせび泣くかのような、恍惚とした声だった]
『天使様……我らをお救いください……』
[しかしそいつ――男だ――は跪き、祈るようなことはしなかった。
もう少しで手の届く位置にいる翼人を、引き摺り下ろさんと手を伸ばしていた。
男の眼に欲望の色を見て、ひいっと悲鳴を漏らし飛び上がる]
穢らわしい、なんと穢らわしいんでしょう!
そのような穢れた手で――
[背から左手で引き抜いたのは短弓。
同時に右の手指に三本の矢を挟み、一本目を番えた]
触れることは許しません!
[放たれた矢は、男の伸ばしていた右腕を、付け根からふっ飛ばした。
何処かで響いた絶叫に、男の声が続くか]
―砂塵の街―
[舞い上がる砂埃に、廃墟の壁土の色が混ざる。
ざ、と尖った靴先を踏み出す軽業師は、石塊の
落ちる音の合間にマティウスの呟きを拾って…]
…違うのか?
[常より乱暴な手つきで、銜の片側を引き下げる]
…そうかもな?
"檻"を黒く沈めたのは…俺だもんな?
[僅かに犬歯が覗く。見えずともざらついた笑み]
お前は――
俺の「炉」を 起こしただけ
[肩ごと身をひくつかせる態のマティウスへと
顔を近づけて屈み――囁きながら覗き込む。]
…あのあと、何人死んだ?
なあ、
( ― マ・ティ・ウ・ス ― )
[痩せた頬へやさしく打ちつける文字のかたち]
[背に手を回し、やや大振りのサバイバルナイフを抜く。
「殺した人が見つかったら、おじさんはどうするの?」
そんな気の抜けた問いに答える代わりに、少年へ向けて駆け出し、]
そうだ。
私は人殺しさ。
[見上げる少年の瞳へ向けて突き出す]
[何かが風を切る音と、男の悲鳴。
先ほどの叫び声よりは近く、そしてはっきりとしている。
自然、興味はそちらへと向いた。
ゆったりとした足取りで、翼人の女と腕をなくした男の前に現れ]
……。
神罰の代行者、とでも言ったところか。
おい、こいつは何の罪を犯したのだね?
[男を助けるでもなく、皮肉げに声をかけた]
『檻』……
[地面に置いた右手を、
砂を握るようにゆるく握り締める。
自分に軽業師の影が落ちているのを感じる。
クレオソートの臭いが濃くなる。]
[聞き慣れた声を耳にすれば、歩みを止める。
この稼業は情報が命であり、
カウコからも数度か情報を買ったものだ。]
イイ仕事入たからネ。
報酬に向けて、頑張るマスデスヨ。
…それはそうと、公の場で殺し屋言う、良くないネ。
[口元に指を伸ばして、彼を注意した]
そういえば、一件知りたいことあるヨ。
ドロテアという娘のこと、何でもイイから知てるカ?
[ぶっきら棒に尋ねる。
私怨とはいえ、たかが小娘独りに大枚を叩く
ウルスラへの警戒は、未だ解けずにいた。
何かネタがあるなら、事前に掴んでおければと]
僕、知らないって言ったのに…。
おじさん、悪い人。
[サバイバルナイフをこちらに向けられ…]
僕、お腹空いてないけど、おじさん悪い人なら殺してもいいよね。
[そう呟き、普段の虚ろな声とは違う咆哮をあげると、身体がミシミシという音とともに変化する。
手が伸び、胸筋が発達し、顔が変化する。口は裂け牙が覗き、目は赤く、体毛がなくなった代わりに皮膚が黒ずんでいる。]
死ねよ、人殺し!
[1mはゆうに超えるだろう右腕を尻餅ついたまま、男に振りかざす。]
[犬歯の白さが幻視出来るようだった。
弾力のない肌にえがかれる「名前」
文字が綴られる度に、気付かぬ程微かに頭部が揺れる。]
レ……、レーメ、フ、ト。
[軽業師の耳元に囁き返すように、音が漏れ出る。]
[万が一にも返り血の届かぬ距離まで離れると、即死はせずとも出血で長くはない男を眺め]
ざーんねん。
天使様は下卑た野郎に救いの手など差し伸べないのでした。
あ、でも、こんな所で生きなくて良くなったんだしある意味救われたかな?
[キャハハと笑う声を聞く意識は、男にまだあっただろうか。
と、そこにゆっくり近づく足音>>134があり、死に掛けの男はそのままに振り向いた]
神罰ぅ? あたしらって神様の代理なのぉ?
[大袈裟に語尾を上げ、口を横に広げて歯を見せ嗤う]
こいつはねぇ……汚いから。
汚い手で触られそうになったら、その手を払うのは当然でしょ?
触りたくもないから撃ったけど。
天使といえば神の遣いだ。少なくとも私はそう習った。
……君は天使ではないのか?翼人ではあるようだが。
[嗤う娘に、小さく眉を潜めつつも淡々と返した]
確かに汚いな。淑女に触れるならば、もう少し身なりを考えるべきだった。
だが、君も物好きだな?翼があるのに、わざわざこんな地上に降りてくる意味があるのか?
今の地上は汚いぞ。こんな身なりの男ばかりがうろついている。
[懐から一丁の拳銃を取り出し、男に銃口を向ける。
感慨もなく、彼の頭に向かって引き金を引いた。高い銃声。
男が避けられたかどうかまでは、気にしていない]
――ゴミ溜めと相違あるまいよ。ここは。
[その後を追うように黒い腕が唸る。
異形の腕が叩きつけられた衝撃で、残っていた床材が粉砕されて舞い上がる。
遅れて。轟音と衝撃に建物全体がびりびりと震える。]
[男はいつ確保したものか、左腕に酒瓶を抱え]
[今、これ以上の武器を携行して居ない事を思い出す。]
ち。
[腕だけは低くナイフを構えたまま]
復讐などというものは君には分からないのだろう。
―砂塵の街―
…ああ、
[喩えた『檻』にか呼ばれた名にか、
旧友の頬へ触れたままに浅く応える。
彼へ俯く軽業師は、
尖らせた舌先を僅か覗かせて…どろり。
黒く灼けた、コールタールのひと雫を
マティウスの頬へ向けて垂らす―――*]
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