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[呼ばれて、立ち止まる。声の主を見上げ、確かめるように名前を呼んだ]
メイ。
[逡巡したあと、ぽつりと呟いた。自分でもよくわかっていないのだろう。そんな声になった。]
ウェンディがいないんだ。
さっきまでいたのに。抱きしめてくれたのに。
探しても、見つけられないんだ。心配です。
[自分から声を掛けたのに、ぽつりと名前を呼ばれるとぴくりと肩が震えた。
昨日とは打って変わった弱弱しい様子に、動揺がはしる。]
ウェンディ、が・・・・・・?
いないの?いないって・・・・・・どこにも?
[声が少し震えた。]
うん。
[返事は短く、ただこくんと頷いた]
いない。ずっとすれ違ってるのかな。いませんでした。
家に帰ったなら、帰る前に言うよね。……じゃあ、どこだろう。
[途方に暮れたような声でそう言った]
[メイの視線につられるようにマキを見やる。]
おはよう。また会えたね。縁があるみたいだ。
……マキは、ウェンディがどこにいるか知りませんか。
『…違うよニーナ。
ここに戻ったのは私の意志』
[ぴくり]
[聞こえた声に眉を顰める]
…ニーナ…。
アンタの仕業だったのね。
あたしは外に出てもっと楽しみたかったのに。
外に出てもアンタの支配力が強くてろくに遊べなかったのに。
[ぎろり]
[自分の胸の辺りを睨みつける]
[声は自分の中から聞こえる]
[それはもう一人の自分]
『だって…外は怖いよ?
こっちの方がずっと良い…』
全く、ニーナは臆病なんだから…。
あたしは外で遊びたかったの!
[ふんっ]
[腕を組んで顔を背ける]
[自分の中でニーナが身を強張らせた]
[視線をスノウに向けて]
うん、黙って帰ったりはしないよね・・・・・・。
あたしも探すよ。スノウ。ね!
[ウェンディにしたように、頭をぽんぽんと叩いて。
スノウがマキに質問すると、自分もマキに視線をやった。]
戻る術を・・・・・・?
[マキの呟きが聞こえ、いぶかしむ]
ここでは、よくあることぞ。
長い夜は、不思議な力を持って何かを吸い寄せる。
一夜の魔法が、次元の壁を飛び越えさせる。
[呪文を唱えるように、訥々と言った。]
・・・・・・。
・・・・・・ウェンディ。
[思わず絵に触れそうになる。
二匹に背を向けた姿勢なので、その表情は分からないだろう。
背後から、呪文のように話すマキの言葉が聞こえてきた。]
[外から聞こえた声に、顔を向けた]
おや。
君はたしか――。
[記憶を辿り寄せる。どの位置にあった絵画の少女だろう。
そして、自分が彼女と同じ世界にいることに、やっとのことで気付いたのだ]
うん。ありがとう。
[ぽむぽむと頭を優しく叩かれながらくりくりの目でメイを見つめ、そして再び小さく首肯して言った。ほのかに安心したのだろう、一瞬だけ声が和らいだ。それから、マキが尾で示した絵に目を移して――。]
ウェンディ。
[ぬいぐるみがかすかな声をあげた。悲痛な声だった。じっと絵を見続けながら、マキの説明を聞いていた。]
[暫く絵のほうを向いていたが、マキとスノウを振り返った。
スノウの悲痛な声に、悲しそうな顔をする。]
確かに長い夜・・・・・・だね。ちょっと・・・・・・変。
よくあるって事は、・・・・・・明けるんだよね?夜。
[くるり]
[聞こえた声に振り返る]
…ああ、警備員のおじさん。
そう言えば閉じ込められてたっけか。
[ちらり]
[胸の位置で腕を組んだまま]
[横目で視線を向けた]
[メイの背中から漂う不思議な空気も、苦しげなスノウの声も、マキの思考を揺らしたりはしない。]
明けない夜はない。
夢が覚めれば、ネズミは動きを忘れて井戸端に固まる。
ウェンディがどうなるのかは知らぬ。
おじさん。
[自分がおかれている立場よりも、その一言が胸に突き刺さる]
ま、君から見たらおっさんだろうけどね。
[湖に右手を浸す。揺れる湖面は、七つより多彩な色を孕む]
美術館の怪談が本当にあったとはな。
[存外に落ち着いているのは、覚悟があったからなのか、未練がないからなのか、戻れる確信があるからなのか]
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