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[真夜中に電話が鳴った
闇に鳴り響く電話は縁起でもない
這い蹲る様にして廊下に出て受話器をとる
作家先生だ]
「グリタ君!原稿が上がったよ!
今日は午前中から出かける予定があるんだ
今すぐ取りに来てくれないか!」
[脱稿直後特有の高揚感で無茶ぶりしてきやがる…
どの道夕方には村を出なくてならない予定だから確実に受け取っておきたい]
わかりました、できるだけ早く参ります…
[欠伸をしながら電話を切った]
[夏とは言え未明の空気はひんやりとして
露で湿った土の匂いがする
都会と違って外灯の少ない暗い道を歩くと
神社の付近まで来ると昨日の祭りの残り香に変わり
向こうから誰かやってくるのが見えた]
おはよう、お二人さん
[五郎丸君達だ
早朝の散歩なのだろう
ポチにドスッと頭突きされ
鼻あてで鼻背を思い切り押されるのが定番になりつつある]
(おお痛い
トキさんには鼻タッチなのに、なんで…)
[ひとしきりわしゃわしゃした後、立ち上がり別れを告げる]
[鳥居の前を通り過ぎようとした時
突然ヒグラシが一斉に鳴き始めた
今まで聴いたこともない割れんばかりの大合唱]
(なぜ、こんなに…)
[背後から五郎丸君とポチの鳴き声が聞こえた…ような気がしたが
その時大きな風が吹いて]
[日課の早朝の散歩
いつもと違うのは犬好きのおっさんが犬にちょっかいをかけた事]
好きだな
[それは褒め言葉]
じゃ、また
[ひとしきり構ってもらい満足した犬を連れて再び散歩を再開する]
今日は河原に行こうか、ポチ
[蝉時雨、蝉時雨]
んっ?
[痣の部分を握られたような感覚の次は引っ張られる感覚が襲う]
人引きの呪(まじな)いか
ポチ、お前は生(い)くんだ
代わりに父と母を守れ
俺は此岸(しがん)から何処に行く
[放たれた紐]
ポチ、また逢おう
お前がその気ならお前が幾度も輪廻から舞い戻った時に逢おう
いつか神隠しから還る日まで――
[あの神社で見たものは幻だったか。
神社でふたり(と一匹)を見かけて
ふたりは何かよく分からないことを言っていて。
気がつけば、さきほどとは何かが違う場所]
……ここ、どこ?**
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