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[激しいやり取りを、黙ってきいていた]
[こたえはどこにあるのだろう]
[そもそもこたえは存在するのか]
……鈴?
[ちりりと聞こえた音に目を瞬いた]
[ザクロが語った鬼子母神の伝承を思い出す]
それが、狐神さんの、大事なもの?
[ちりり、ちりりと鳴る鈴は、]
まるで誰かを呼んでいるみたい。
ここにいるよ、って。
[まるで蛍が光るように]
[呼んでいる。エビコの声が聞こえた]
呼ぶのはどうして。寂しいから。
ここにいると、気づいて欲しい。
誰かの心と触れ合いたい。
倦まれても嫌われても。
必要とされていないとしても。
心は渇いて、求めずにはいられない。
[鈴に触れようと、手を伸ばした]
想いが、幻を形にする。
どうして。心がそれを必要とするから。
[そっと、鈴に触れる]
[彼の手の上で、ちりりと音を立てる鈴]
わたしはここにいる。
あなたもここにいる。
[ノイズのように、彼の声に混ざる異質な響き]
[鬼の面を、まっすぐに見つめ返す]
ねぇ、どうしてそんなに、
苦しそうな顔をしているの……?
[それは無表情な鬼の面に覆い隠されたその奥へ]
[鈴ごと包むように。彼の手に両手で触れる]
……あなたはここにいる。
[鋭い制止の声に、手が微かに跳ねて]
[壊れたレコーダーが吐き出すような声]
[乱れた声が紡ぐ言葉は自らを追い込むかのような]
……っ!
[最後の言葉に、ハッと息を呑んだとほぼ同時]
[投げつけられた鈴を、胸の辺りで受け止めて]
[ぐっと握りしめたまま、彼の姿を見つめた**]
[投げつけられた鈴から彼へと視線を移した時には、木刀は既に振り下ろされた後]
ダメッ!!
[悲鳴に近い叫び]
[鞄を盾にしてザクロが身を守ったのを見、一瞬安堵するも、
取り出された短刀を見て小さく息を呑んだ**]
[罅割れた鬼の面がこちらを向く]
[伝わる声は、濁りない彼の声]
だからあなたは、戦っているの?
忘れられたくない。消えたくないと。
自分を忘却の波に追いやろうとする神様に、
抗おうとしているの?
[川がコンクリートで固められ、数十年の時が過ぎれば、
蛍を見たこともない子供たちが清潔な町並みを歩くのだろう。
眩しい町明かりに目の慣れた大人たちは、ひと夏限りの淡い光を忘れ去っていくのだろう]
自分の目で、未来を見るために。
忘れられる弱き者と、未来に残る強き者。
残る側に、なろうと。
[短刀を持つザクロの、力無い手元]
[目には目を、そう言った彼女はきっと、自分からは動かない]
[ヨシアキの木刀、ザクロの短刀]
[どちらにも、その手で誰かを傷つけさせではいけない]
[傷つけることで、きっと己まで傷つく人だから]
[もし動くことがあれば、その時は――**]
[翻る赤い木刀]
[地に跳ねる短刀の鞘]
[今の彼を押さえ付けるなど、できようもなくて]
[躊躇いもなく、ヨシアキとザクロの間に身を躍らせた**]
っ!
[背中を突き飛ばされて、前のめりに思い切り転んだ]
[膝を軽く擦って、痛みに顔を顰める]
……、老先生。
[教授の笑みが脳裏に過ぎる。
あの人は優しいから、きっと悲しむだろう。でも、]
私のこの体は、いつか消えなきゃいけないから。
……ううん、消えるんじゃない。戻るの。
“あやかし”がただの蛍に戻るだけ。
[短刀を手に、ザクロが再びヨシアキへと向かう]
[動きたいのに、痛む足が咄嗟には動いてくれない]
[せっかく人の体を得たのに]
[結局、なにもできないのか]
……っ。
[ザクロから言葉を投げられて、小さく息を呑んだ]
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