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― 中庭 ―
ロクなもんじゃねえなァ。
ああいう場所には処刑道具でも仕舞ってあると相場が決まってんだ。
[庭の隅に佇む小さな小屋――蔵のような建物に舌打ちひとつ。]
ロクなもんじゃ、ねえ。
[噛み締めるように二度言った。
脳裏に過ぎるのは、かつてこの場所に連れ去られ、帰らぬ者の顔。]
[視線を逸らせば、嫌でも目に入る高い壁。
目を細め首を上向け、片眉を上げる。]
……ふん。
[よじ登る気は毛頭無い。
この外壁が並大抵のことでは越えられぬこと、修復に携わった自分は知っている。
「崩れないアリ地獄」との老親方の評を耳にしたのも、そう昔の事ではない。]
まー、出られねんじゃ楽しくはならねえな。
[戻るか、と一人ごちて踵を返す。
とはいえ行く先は限られているのだが。]
仕事じゃねえさ。生憎今は閑散期でな……毎日お前さんトコに飲みにいく暇があるのもそれでだよ。
そっちこそ、魔女裁判に掛けられた囚人に酒を振舞う仕事ってんでもないんだろ?ミハエル。
……
[ミハイルだったか、と、一瞬迷う。
人の顔はともかく、名を覚えるのが苦手だ。
酒場の、で、いいかと思い直して肩を竦めた。]
[ユノラフ、クレスト、イルマ。
その名を伝えられても、顔と名が一致するまでに暫しの時間を要したか。」
あいつらもか。
現実味のねえ話だな。
基準ねえ……何か疑われるようなこと、したのか?
俺らとは違って、叩いても埃が出そうにない奴らだが。
…或いは、何かであの姫さんを怒らせたとか。
[さりげなく仲間に加えている辺り、非常に失礼だった。ドロテアに対しても失礼だった。通常営業である。]
この場に居る時点で、そうだろうな。
[分かりきった言葉を投げ掛けたのは自分。
それに律儀に応える酒場の主人に、薄く笑う。]
魔女だぜえ、魔女。
余程、あの女の方が魔女みたいだろうによ。
[そうして、ふと言葉を切る。]
………なあ、酒場の。
無事に戻れると思うか。
[無意識に、一段低くなる声色。]
俺の知る限り、以前ここに連れて来られた者は誰一人戻って来てない。
この先から庭に出られてなあ、たった今そこを見てきたが。
明らかに“何か”行われた形跡があった。
[処刑場になったのではないか、と、暗に。]
…だあな。
待っている奴がいるなら、戻ってやらんとな。
孝行は、どっちか死んでからじゃ出来ねえ。
[彼の母親の話は、酒の席で聞いたのだったか。
余り深く突っ込むことはしていないが、噂は耳に入る。]
俺は別に待つ身内は居ねえが――…
それでも、こんなところでお陀仏は御免だ。
[過ぎるのは、ドロテアの口にした“取引”。
相手が魔女かどうかはともかく、こいつも持ちかけられたのだろうか?]
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