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― とある大樹の下 ―
―――あァ、賭けたな。
…そんで、何でその酒が俺んとこに来る。
[ごく当たり前のように、生きていた頃と同じように大樹に凭れた姿勢のまま、配達屋が足元に注ぐ酒を見ていた。]
ま、悪くない酒だがな。
[地に出来た沁みが広がる。
酒を口に含んだ男のその表情で、その味を知る。
常の半目がより細まる。微かな笑みの仕草。]
ああ? 何だよ。
[なにか言いかけて止める男に、唸る。]
……つうか。
お前、聴こえてねェと思ってるだろ。
[聴こえているのだ。
だから、中途半端に口にされると困る。
問い返すことはもう、出来ぬのだから。]
…ち。
なら、「あいつ」に聞く。
[大人げなく舌打ちして。
変わらず樹に凭れたまま、遠くに見える死者のひとりへと視線を投げる。
そうして、再び友人を見据えた。]
壁に囲まれて見る空は、息が詰まった。
お前は、…お前らは、生きろよ。
成仏出来るまで適当に見てっからよ。
[男に見守られるのはさぞ嫌だろう。
配達屋の反応を想像し、口の端を少し上げる。
男が去って行った後もまだ少し、酒瓶を見詰めている。
中で揺れる琥珀に、在りし日を映すように**]
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