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[豚汁が程よく温まったので火を止めた]
『ホズミ姉さん、豚汁まだぁ?』
[とイマリの声が聞こえた気がしたが、その姿はなく。
心にまた広がる不安]
まさか、イマリ、ちゃん?
[ふと見ればそこに居たはずのゼンジの姿もなくて]
ゼンちゃんも…。
[また、空を*見上げた*]
[空を見ていた視線を下へ。
嫌な考えを振り払うように頭を振ると
いくつかお椀に豚汁を移す]
豚汁、温めたから食べたい人はおいで!
[フナムシがちらほらと居つく部屋には持っていこうとはせずに、
炊事場から顔を出して努めて明るい調子で部屋の方に声をかける。
もし誰かが取りに来たなら、いつものあっけらかんとした調子で
箸と一緒にお椀を渡す*だろう*]
あらあら…顔突っ込んだら顔が汚れちゃうじゃない。
[お椀の中に顔を突っ込む猫少年を少し吃驚した様に見たが、
仕方ないなぁと炊事場の戸棚から付近を取り出した]
[物も言わずに水場で手を冷やしているライデンをちらりと見遣ると
どうしたの?と少し心配したように声をかけたが、
返ってきた言葉にくすりと笑うと]
薬屋もさすがにいつも薬持ち歩いてるわけじゃぁないんだねぇ。
[などと軽口の応酬。
さして気にする様子もなく、布巾を手に猫少年の前へ。
食べ終わったなら顔を拭いてあげようと待ち構えている]
[炊事場に姿を表したエビコにまだ残っている事を告げようと口を開いたが、言葉は不意にエビコを呼ぶ声に遮られた]
[廊下の先を見遣るエビコの横顔を見ていると、声の主はグンジのようで]
あら、だったらまだあるって伝えてくれない?
[先生もお腹空いたのかねぇ、という言葉にに応えて微笑んだ]
はい、先生。
[グンジに豚汁を入れたお椀を渡す]
[エビコの落書きの話を聞けば]
ああ、あたしも何か書いた覚えがあるわ。
お社の、後ろの柱に。
皆書いたもんだよ。
あたしなんて村を出ていく事が決まってたから、真っ先に
[昔を思い出すとからりと笑った]
いやだなあ、先生。
絵馬なんていずれ捨てられちゃうじゃない。
そんなものにお願い事は書いてられないよ。
[猫少年が顔をあげた隙に布巾で口の回りを拭いた。
ともだち…と言われれば]
ああ、そうだね。
ともだち、だよ
[と猫少年の頭を撫でる]
中には絵馬に書いてお祭りで燃やす、って子もいたけどさ
あたしはずうっと残しておきたかったからね。
[むしろ、書いた、というより彫ったに近い願いの言葉は
―『絶対、一人前になって帰ってくる!』―
その言葉通り帰ってこれたのはきっと言葉を残したからだと]
魚は今はないなぁ。
[などと猫少年に語りかけたがその視線の先を一緒に見た]
あらやだ、何もないじゃない?
何か見えてるの?
[首を傾げる]
おっきい?
さむくて、冷たい…
[猫少年の言葉を反芻する。
それはさっき自分が勢いで振り払った嫌な感覚によく似ていた。
ふと何もいえなくなって口をつぐむ]
……ふっ
[口をつぐんだのも束の間、現れたライデンの掌を見たならば
不意に笑いがこみ上げた]
やっぱ、薬屋、なんだねぇ。
[グンジが見える、といったのを聞くと]
…ふうん、先生も何か見えるの?
あたしには……見えないや。
[事実とは違うことをとっさに口にする。
それを認めてしまうと、いけない気がしていたから]
[そ、見えないのが、フツウなんだ。
[グンジの言葉を反芻した。
まるで自分に言い聞かせるように]
先生は何が見えたの?
[でも、自分が見えたものは皆にも見えているのかとも思って
つい口にしてしまう]
へぇ。
冷やしただけじゃぁだめなんだね。
あたしはいつも氷当ててそれっきりだったよ
[ライデンの方を少し感心したように見る]
おじいちゃん? おじい…
[言ってはっと息を呑んだ]
ウミ、じいちゃん…
[ぽそり、呟いた。
結局祭りの前から一度も姿を見せなかったあの老人は
どうしたのだろうかと考えていたその耳に聞こえたのは
グンジの言葉]
死者…それって。
[ネギヤが消えてからばたばたと消えていった
みんなのことか?と目は語る]
[グンジの指差すものを一瞥して]
見た、よ…。
…広報誌の日付は、半年くらい前だったっけか
それで?それが?
[次第に口調がきつくなる]
それが…なんだってのさ…だってみんな「いた」じゃない。
ふっ、といなくなっちゃったからって死者だったなんて…
そんなの…
[そんなの、考えたくもない。
握り締めた手は震えていた]
遺体?
なに言ってるの?
勝手に人を殺さないでよ…
[グンジに射すような視線を送るとエビコの口からも
それを肯定するような言葉が聞こえれば]
えびちゃんまで、なに言ってるの?
あなた…
[ふ、と視線を下に向けて黙る]
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