[1] [2] [メモ/メモ履歴] / 絞り込み / 発言欄へ
[ふわりと髪を撫ぜられれば2つの影が重なる。
この村の年頃の男女の間ではよくある事。
2階から聞こえてくる笛の音が上から落ちてくる感覚。
けれどいつの間にか、その音色も遠くに聞こえ始めて
――― 白いシーツの上に皺が増ていく。**]
― 回想・8年前 ―
[周囲に急かされるまま子を成す事が女の務めだと言われればそれを素直に受け止めたけれど、1人だけではどうする事も出来ない問題だった。
当時は母も健在で教えられる事には素直に頷いた。それと同時に、母が不思議な事を教えてくれた。]
『 子供はすぐにできるもんやないんよ。
お月さんが一周したくらいになって
ようやっと教えてくれるもんなんや。 』
[それは教育をまともに受けてなくとも子を成した事がある女性ならば知ることが出来る知識。
ただ、それを聞いて 誰かと閨を共にしてからは他の誰かとはひと月の間は閨を共にしないようにするのが習慣となってしまっていた。]
[初めての相手は慣れた相手が良いと、中年の男性を母が連れて来たことは今でも覚えている。何も知らない身体はその日から、母と同じ医師を目指す おんなとなった。]
[それから次の月。
同級生のダンケが家に遊びに来てくれた時があった。同学年の友人はあまりいなかったこともありそういう事は暫しあった。
けれど、先月の記憶もまだ消え失せないまま、自室で畳んだままの布団の上にちょこりと座り]
ダンちゃん。
そろそろ子供の1人でも作れって言われてたの。
ダンちゃんも言われてきてるでしょ?
[今とあまり変わらない姿形をした若葉は、そう言えばぺこりと頭を下げて]
…お願いして、 いいかな。
[躊躇いがちのような恥ずかしそうな口調で言った。
――― それからひと月と数日過ぎた日。
それまでの間、身を重ねた相手はいたとするならダンケのみ。他の相手とは寝ずのままいつもと変わらない日々が過ぎた。
突然襲う吐きのまま気の意味が解らず戸惑って母に縋れば、こちらの具合の悪さを吹き飛ばすような笑みが返ってきて
夕飯は小豆の沢山入った赤飯が出てきたのだった。*回想・了*]
― 翌朝・早朝 ―
ん、…
[小さな身動ぎと衣擦れの音。
横で眠る男は起こさぬように衣服を羽織り身支度をする。
ぼさぼさに伸びた髪を櫛で梳くも通りは悪くそろそろホズミの所へ行くべきかと考える。
風を通そうと窓を開けると、人影を見た。]
…アンちゃん?
気のせいかな?
[首を傾げもう一度窓の外を見るがそこには誰もいなかった。
その足で居間へと向かえば朝食の支度を始める。
朝食は、水菜の味噌汁と茄子と胡瓜の糠漬け、大根おろしを添えた卵焼き。おひつに入っているご飯は2人が起きてから用意するつもりで]
今日は学校行く日だったな。
あ、それとポルテさんの所にも。
[くつくつと沸く味噌汁をお玉で薄く掬って口へ運べば]
…熱ッ ちちち。
[舌に痛みが走り目を細めた。]
『…大丈夫?』
あ、おはよー。
[背後には母親と似たようにぼさりとした髪に寝癖を残した双葉の姿。]
ダンちゃん起こしてきてくれる?
[双葉にそう伝えると、こくりと頷いて奥の寝室へと向かっていった。双葉はダンケの身体をゆさりゆさりと揺らして起こそうとしただろう。
3人が食卓へ揃えば、櫃から米をよそい並べて、手を合わせて「いただきます。」と言ってから食べ始める。]
…ダンちゃん。
ポルテさんの様子 今日も見てくるけれど良くないようなら今日もご飯食べに来てくれていいからね。
ね、双葉。
[横に座る双葉と視線を合わせて頷きあった。]
[円卓を囲んだ食事を終えれば洗い物を済ませ、双葉は先に縦笛を嬉しそうに持ったまま学校へと向かって行った。]
そろそろ儀式のための生贄が決まる時期だね。
決める前に村長さんは必ず私のところに来るからなんとなく解るんだよね。
[これは内緒だけど、とダンケの方を向いたまま人差し指を唇の上にあてて言う。]
儀式の生贄は、1人 だからね。
[理由を問うのならそう答えて、食器を洗い終えれば仕事の支度を始める。
古い戸棚を開けば母が残してくれた手記らしきものが大切そうにしまってある。そこには仮に殺人が起きた時にどう対処すべきかなども記されていたものだった。]
さ、ほらほら。
ダンちゃんもそろそろ畑行かなきゃ。
お野菜さんたちがお水待ってるよ。
それじゃあ、仕事行くね。
[戸棚から鉛筆と紙を取りだし鞄へ詰め込んで出勤の支度。
診療所の方には
『本日は学校と回診日です。
戻りは夕方ころです。』
と、張り紙をしてから家の外へ向かう。]
ほわー。
今日も暑くなりそうだぁ…
[蝉の鳴き声を聞きながら
陽が昇り始める村の青空を見上げた。
学校へ向かう前にその足で小料理屋へと向かった。**]
ポルテさーん。
お邪魔しますね。
[ダンケが水を汲んで持ってくるより前に朝の回診で彼女の元へ向かった。
問診の後、体温を計り―――常より高めの体温に思い悩む顔。]
あの、ポルテさん…
もしかして ――――
[幾つか質問を繰り返してから]
…暫く無理はしない方がいいと思います。
体調が良くなるまで時間がかかるかもしれません。
また明日来ます。
[数日ぶりに学校に来ても職員間では儀式の言葉が飛び交うようだった。
同時に、アンの様子がいつもと違うことも自然と耳に入った。狭い村は少し広い家と似ていた。
保健室へと向かえば白い布に囲まれた世界。
椅子に腰かけて机に頬杖をつく癖。]
そういえばマシロちゃんのお婆ちゃん
見つかったのかな。
[窓の外の天気は相変わらず良かった。]
[1] [2] [メモ/メモ履歴] / 絞り込み / 発言欄へ