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―街、美容室―
「だってぇ。どーせかたづけても人来ないしぃ?お客さん、隣町のでっかいお店に全部取られちゃったじゃないですかぁ。」
[店の中、現れた「自分」に、派手な化粧と髪の色をした後輩が舌足らずな声で話しかけている。]
「けどねー。それでも来てくださるお客さんいるし、それに、さぼりは店長が許さないと思うなー。」
[それに対し、「自分」が、乱雑に置かれた週刊誌を本棚に並べ、店の奥を見ながら言う。]
「どーせてんちょーも、お客さんこないとこっちこないでしょー。そうそう、それよりもヒナさん、前からみんなで気になってたんですけどぉ、」
[からからと笑って受け流しながら、いきなり話題が変わる。]
・・・!
[この続きを、自分は知っている。聞きたくなくて耳をふさぐが、それにもかかわらず「声」は耳に入ってくる。]
「再婚、しないんすかぁ?もったいないですよぉ。ヒナさん、美人なのにー。」
[瞬間、「自分」の笑顔が明らかに凍るが、]
「んー。私をもらってくれる相手がいないからねー。」
[軽く受け流そうとする。]
[けれど、]
「またまたぁ。わかってますってぇ。前のダンナサンのことが忘れられないんでしょー。
こーつーじこでしたっけー。」
[うんうん。
いかにも「同情していますよ。」という風に、彼女たちがそろってうなずく。]
「けどさぁ。もう5年でしょー?
やっぱ、いつまでも引きずってないで、いいかげん新しー恋始めるべきだと思うんすよねー。
もったいないですよー。
だって、こきょーからカレシも追いかけて来てんでしょー。いつまでもほーちしてると、かわいそーですよー。」
[たまたま見たことあるんですけど、イケメンですよねー。
続ける彼女の言葉に、]
「あの人は、彼氏じゃないよー。ただの幼馴染。夫を亡くして生活が大変なのを気遣ってくれているだけ。
その中に打算や恋愛感情なんて一切ないよー。」
[作り笑顔で苦しい嘘を吐く。]
[覚えている。何かと世話を焼いてくれていた彼に、「前の夫のことを忘れることはできない。貴方に恋愛感情を持つことはできない。一緒になることはできない。」とはっきりと言ったことを。そして、彼はそれでもいいから通ってもいいかと聞いてきたことを。それを許したことを。]
「えー。そんなはなしありますー?」
[やはり彼女たちは懐疑的で、]
「あ。そっか。みーちゃん、でしたっけ?
あの子が嫌がってるんでしょ。だから結婚できないんじゃ・・・」
[一人の言葉に「ああそうか。」と全員がうなずく。]
「みーちゃんは関係ないよー。それよりも、エミちゃんはどう?最近、彼氏さんとうまくいってる?」
[いい加減嫌になってきたところで、「自分」も話題変換を図り、そして]
「そーそ、きーてくださいよー。カレったら・・・」
[成功し、愚痴という名ののろけ話が始まったところで、だんだんと「自分」たちの姿が薄くなり、声も小さく消えて行った。]
・・・なんなの・・・
[ふらふらと店から出る。]
「思い出」って、これのこと?これが、私が思い出さなきゃいけなかったことだとでもいうの?
[そんな馬鹿な。
そして、それを思い出したからと言って、なんになるというのだ。
この場に連れてきた変な生き物に文句を言いたくなった丁度その時、]
はぁ・・・
[帰るどころか、別の場所に閉じ込められるかもしれない。そんな話を聞かされて、それでも、やはり「ここ」で「何か」を見つけるしかないようで、その場に立って思考をめぐらす。]
10年前・・・
[けれど、]
なんで、15年前や6年前じゃないのかな・・・
[やはり引っかかるのはそこで、]
昔から辿って行った方がいいかな・・・
[ポーチからメモとペンを取り出した。]
15年前の5月、交通事故・・・
[そこは思い出したくもないから、さらっと飛ばして、]
故郷にい辛くなって、こっちに引っ越してきて、それで・・・
[居場所を伝えたのは自分の家族だけだったはずなのに、わずか1ヶ月後、幼馴染が追いかけてきた。]
最初は、すぐに追い返したんだよね・・・
[何を思っていたのか丸わかりだったから、はっきりと、帰れと告げた。]
なのに、
[彼は諦めなかった。「それでもいい」と、近くに部屋を借り、毎日、片道3時間かけて会社と家を往復していた。]
ただ迷惑でしかなかったんだけど・・・
[いつしか根負けして、彼を家に招き入れた。]
それから4年して、みーちゃんもとても懐いて、彼も、みーちゃんに優しくて、それで、結婚を決めたのだっけ・・・
それから・・・
[不安はあった。血の繋がっていない親からの虐待は、現在も社会問題になっている。
彼も豹変してしまうのではないかと怖かったのだが、]
結婚してからも、ひろ君が生まれてからも、ずっと、彼はみーちゃんのことも愛してくれていて、それで、最近は・・・
「みーちゃんが最近なかなか家に帰ってこないのは、俺のせいか?」
[よく、とても不安そうに尋ねてきていた。だから、大丈夫。そう思う。]
違う。私自身の、ワスレモノ。
これは、「今」このとき忘れて来ていたもので、みーちゃんと彼は、関係ない・・・
[だとしたら、全く関係のないことか。
つぶやき、もう一度メモを見る。]
・・・あれ・・・?
これ、は・・・
[時系列に目を留める。
「15年前、夫死去」
「その後、この町に引っ越し」
「1ヶ月後、幼馴染が追いかけてくる」
「4年後、家に招き入れる」
つまり、]
彼を家にあげたの、ちょうど、このころじゃない・・・
[今の状況から考えて、これは偶然ではなさそうだ。]
・・・みーちゃんだ・・・
[毎日のように家のチャイムを鳴らし続ける彼に、自分と同じように冷たい視線を投げていた娘。
彼女がいつからか彼に好意的になって、]
「私、おじちゃんだいすき!おかあさん、私、おじちゃんにお父さんになってほしい。」
[毎日のように言われたのだった。]
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