[どさ、という音が男以外に誰もいない部屋に響く]
――でっ、……
[小さくあげられる呻き声。椅子からずり落ちた男は、あお向けのまま、ぼんやりと天井を見つめ]
……やっぱり椅子で寝るものじゃないなぁ。
[ぼさついた髪を指で梳かし襟元を軽く整えると、部屋を出、広間へ向かった。
辿り着く直前、誰か死にました、というポルテの声が聞こえれば、前の曲がり角、あちらからは死角になっているだろう位置で、足を止め]
……。
[様子を窺うように、耳を澄ます]
[二人が歩き出すと少し後からゆっくりとついていきかけるが、遠目に部屋へ入るのを確認すると、話しかける事もないままにその場を離れ。
先程まで眠っていた部屋に戻って椅子に腰掛ける。懐からどんぐり飴の袋を取り出し]
[暫くしてから、また部屋を出た。ひとまず広間の方へと向かいながら]
……今日もいい天気だなぁ。
[途中、入り口の方を振り向いては、差し込む温い外の気配に呟いた]
と、おや。
[そのうちに見えたポルテの姿に、足を止める。僅かに首を傾けるようにし]
おはよう。
また、「何か」あったのかい?
顔色が悪いようだけど。
[窺うような言葉を、しかし特別感情が篭っているわけでもない声で]
そう。
また、食べられたのかな?
[空間に仄か漂うのは血の臭い。確認する言葉は単なる日常のよう。歪むポルテの表情に、寸時、目を細め]
それとも……
とりこまれた?
それか、両方かなぁ。
[独りごちるように言いながら、少し遅れて己も地下の方へと向かう]
君が死んでるんだったら、わたしは幽霊が見えてる事になるねー。
わたしはそういう力は持っていなかったはずだけど。
[呟くようなポルテの声に、この場には不釣合いかもしれない調子で反応を返し。
首を傾げるフユキが見えれば、ひらひらと手を振って]
アン君に、バク君がねー。
[フユキの口から出た二人の名を、軽く復唱し]
どうして聞こえるか? どうしてだろう。
彼らが何かを伝えたいと思っているから?
他でもない、君に。だとしたら……
何かの使命のようだなぁ。
[ポルテに向け、本気のようとも冗談のようともつかない事を言い。フユキとの会話を、少しばかり遠目に眺めて静かに聞き]