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[赤い闇に沈みゆく民家の片隅、
視線が一枚の広報紙へと落ちる]
『幻の珍獣 ツチノコが発見される』
[大々的に躍る文字を背負い、
モノクロ写真が見開き二ページに渡り、
掲載されていた]
[それから視線は、集会所の片隅へと落ちる。
ひとのざわめき越しに中心部を覗くと、
祝言の準備だろうか。
慎ましくも華やかな色彩が、
村の女達の手で飾られていた。]
[日もとっぷりと暮れた頃、
女は自分の存在に漸く気付く。]
あたしという人間はね、
そもそも何処にも存在しないんだよ。
そう、どこにもね?
人の何かを"知りたい"と思う気持ちが形作った、
ただの思念に過ぎないんだ。
[女は誰に語りかける訳でもなく、
言葉を紡ぐ]
知ってるかい?
この村には二つの時間が存在する事を。
それらが微妙にすれ違い、混ざり合い、
交し合い、奇妙な歴史を積み上げていくんだよ。
同じ時間軸で平行に進む二つの世界ってのも、
有るかもしれないねえ?
[自らに視線を戻すと、
視線と同じ高さに、赤い水面が揺らめいている。]
――携帯電話の電波塔、ね。
[仕舞って置いた名刺を取り出し一瞥。
ふっと息を吐くと、何も無かったかのように
名前も紙も消え去った。]
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