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―回想・部屋に戻る前―
[去り際に待てよ、とユノラフに声をかけられる>>2。面倒臭そうにゆったりと振り返り目を細めて彼を見れば、紡がれる言葉は最後まで見届けないのかという、ニルスにとっては偽善の塊でしかないもの]
見届ける義務がどこにある?
それならば君は僕と同じように彼を選んだイェンニやイルマに同じ事が言えるのか?
刃が生身の人間に突き刺さり、血が飛び散る光景を、女子供に見せる事はできるのか?
……それが出来ないのなら、正義漢ぶるな。
[見届けることが責任だというならそれは皆平等にあるものだ、と付け足す。最後にユノラフへと近付き、耳元に顔を寄せれば]
生きていれば、また明日。
[それだけ囁くとすぐに彼から離れ、部屋を出て行く。ニルスが残していったのは重さを纏う空気だけ*だった*]
―今朝―
[昨日は彼にしては珍しく複数の人物と多数の会話を交わしたせいか、どうやら疲れたようでいつもよりも長くベッドで過ごしている様子。静かな寝息が部屋に響くなか、控えめなノックの音が幾つか。
暫くした後、小さく聴こえた呻き。
やがて気怠そうに彼が上体を起こせば、眼鏡も掛けずに歪んだ視界のままドアへと向かう。
開けた先に居たのは養蜂家ダグ。
彼から告げられた報せは、イルマの死]
…朝からわざわざ部屋までご丁寧にどうも。
[いつもより不機嫌そうな表情と少し掠れた声で彼が寝起きだという事は養蜂家に伝わっただろうか。それだけ聞けば、静かにドアを閉めてまたベッドへと戻った]
―現在・自室―
[二度目の眠りから覚めて暫く。部屋を見渡してふと、部屋にも窓がある事に気付く。カーテンによって光を閉ざされた窓はどこか寂しく。特に理由もないが、ベッドから降りれば暗い窓へと近付いてカーテンを開けた]
…この世界に、蝶はいない。
[続く時季外れの雪景色。彼が恋い焦がれる風景はそこにはなく。伏し目がちになれば、ひらり、ひらり。誘うようにゆっくりと視界を横切っていった極彩色。はっとして顔を上げた頃には遅く。外は最初と同じ何もない銀世界だった]
…そういえば、イルマが死んでいたと言っていたな。
[古来、とある国では渡り蝶と呼ばれる種は魂を運ぶ死者の精霊と云われている。もちろん蝶を扱う昆虫学者のニルスもそれを知っている。
―――いや。幼い頃から、人の死を以ってそれを知っていた。
それならば、あの極彩色は。
ドロテアが死んだ時も、今回のイルマの時も“彼女”は姿を現してくれた。
…夏至祭の時期は不思議なことが起き易いといわれる。静かに、ニルスの口元に笑みが浮かんだ]
[ナッキとはどの様なものを齎す存在なのかは、この国で生まれ育ったニルスも詳しくは知らない。そんなものなど今回の件が起きるまで興味もなかったのだから。
だが、極彩色の翅をもつ蝶の存在で彼はナッキに対して興味を持った。人を死の淵に誘い、美しい幻想を見せてくれる水の精]
…生かしておくのも、悪くないかもしれないね。
[不穏な言葉は誰にも届かず。それは彼の歪んだ性格のせいか、はたまた学者としての探究心ゆえか。窓の外を見つめるニルスの表情は酷く楽しげであった。やがて彼は何か思案すれば、眼鏡を掛けて広間へと向かった]
―大広間―
…………。
[階段を降りる際、壺を抱えたダグとすれ違う。僅かに揺れたそれは蜂蜜酒でも入っているのだろうか。中身が何であるのかはニルスも知らないが、興味もまた無いのだろう。
広間へと入れば、誰が居ただろうか。
少なくとも、昨日のニルスの言葉を耳に入れていた者は彼が広間へと訪れた事で身を強張らせたかもしれない。
広間の空気が殺伐としたものへと変わるのは、ニルス自身も分かった]
…提案がある。
ナッキを探すよりも、異能者…占い師とやらを探さないか?
[さて、この提案に賛同する者は居るだろうか。居なくともニルスは占い師を暴くつもりだ。自身が考える、候補者の名を挙げて]
[イェンニの詫びの言葉は軽く流す。そして占い師が居たとしても信じられるか、と問われれば]
…そんな信用など、今更。
僕は根拠もなしに外部者という理由だけでトゥーリッキに殺意を向けた。
今回異能者が名乗りあげ、誰がナッキだと言ったところで全信頼を託しているわけではない。
今回はそれを理由に、殺すだけだ。
[暗に占い師などはなから信用していない、そういう事だった。そしてもし告発先が例え自身だとしても、ニルスは鼻で笑って自ら手を下すだろう。ふと顔を俯かせ、小さく呟く]
…誰かを信頼することは、自ら失望に走るのと同じだ。
[思い出した過去を振り払い、いつもの無愛想な顔を上げた]
[そしてニルスの視線の先に気付いたイェンニが聞けば]
いや?随分と可愛らしい格好をしているのが気になってね。
[男が女物の服など滑稽で仕方ないのだが、笑うよりも敢えて似合わないものを褒める事が彼の羞恥心を煽るだろうといった考え。
それはさて置き。
問題はクレストだけではなく、ミハイルもだ。
あの時は深追いしなかったものの、昨日の一連の会話で感じた彼への違和感は拭えるものではなかった]
まぁ、とりあえず異能者が出てくるのを待つよ。
出てこないのなら…“処刑先”にでも挙げて炙り出そうか?
[最後は冗談めかすように軽く言ったが、これこそ彼の望むシナリオ。ナッキを生かし、人を殺す。
蝶を愛した一人の男は、人を信じ、愛しむ気持ちをとうの昔に捨ててしまっていた]
[それぞれがそれぞれの思惑のもと動く空間。不安、恐怖、信頼、疑い、殺意。
そんな中、待てども占い師は名乗り出る様子はなく。
ニルスは静かに口を開いた]
…僕はクレストを処刑対象として希望しよう。
[ミハイルの些細な行動>>221を見て確信した。彼は異能者であると。ニルスはそう言うかのように宣言した]
イルマが占い師であるのならば、やすやすとトゥーリッキに殺意を向けないのでは?見極めることはしないのか?
…それともトゥーリッキがナッキだったのか?
[そしてミハイルを見据える瞳はまるで、お前がナッキなのだろうと、言うかのようなもので]
[珍しく強張るミハイルの顔と必死さの伺える言葉>>227。そして自分の名が処刑対象へと挙がったのに、随分と落ち着いた様子のクレストの反応>>226から、彼が守りたい者が居ると考える。きっとそれは…]
ミハイル。君がナッキだろう。
[無表情にはっきりと告げる。誰から聞いたわけでもなく、ただの勘と、推測から導いた答え]
昨日の会話から、違和感があった。
過去に似た境遇に居たらしいが…それにしては詳し過ぎやしないか?
それから、持ち出した事件も。
まるで何百年も前から生きているから知ってる…そう言うような口振りだったな。
[不敵な笑みは如何なるのだろうか。そんなこと、興味などないのだけれど]
まぁいい。君がナッキだろうと。
…僕はクレストに切っ先を向けよう。
[もう何がどうでも良かった。失望したこの世界で、蝶だけが舞っていてくれれば。人間が死ぬことなど、本望だ]
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