[ポルテとフユキが対峙する様子を少々の距離を置いて眺めていた。それ以上近付く事はなく、声をかける事もなく]
……終わる、のかなぁ。
もう少しで?
神なる狂気が……消える?
[呟く声に含まれるのは、問いの調子と愉悦の色。どちらも仄かなものではあったが。
小さい、欠伸をして]
[意識を失い崩れ落ちるポルテの身体。それがフユキに支えられるのを見、零される言葉に]
ヂグさんが。
……ああ、やっぱりもう終わるんだねー。
[淡々と、だがどこか感慨深げに言い]
どちらにするか? どうしようかなぁ。
どうせだから眠る前に、っていうのも良いかなぁ。
[温かみを含む問いには微かな笑みを浮かべる。声色に怯えはなく、ただ穏やかな雰囲気を纏い]
[フユキに一歩一歩と歩み寄る。ポルテの血が少しく跳ねて襟の辺りに付いたか。一尺と少し離れた位置で足を止め、紅く染まるその姿を見据えた]
静かだねー。
[終幕という単語に、ぽつりと]
静かな終幕なんて、なんだからしすぎてらしくない気もするなぁ。
なんていうとあまり捻くれてるかな?
[視線の先、相手の唇は酷く紅く]
どうして? ……どうしてだと思う?
[問いに問いで返す。やや、間があり]
答えはねー。
わたしにもわからない、だよ。
[ふざけたようなその言葉からは、それが真実であるのかどうかは恐らく窺い切れず]
だから代わりに考えてくれると嬉しいかなぁ。
なんて、冗談だけどねー。
[ポルテの身体が落とされるのを目で追った。静かな空間でよく響く、水面に雫が落ちるような音。鼓動が、と言われて胸元を軽く片手で押さえ]
心臓が動いているの……聞こえるかい?
わたしはこうしてようやく自分の鼓動を認識できるよ。
でも、フユキ君には聞こえているのかな。
[なんだか不思議だなぁ、などと、どこか楽しそうに。胸に当てた手をそっと下ろし]
なんだ、知ってたんだ。
[わざとらしく残念そうな表情を作ってみせ]
必要がないのは……
まー、そうなんだけど。
考えられないのもそれはそれで寂しいかなぁ。
[どうしようか、と悩むような素振りをしてから、相手の微笑に微笑を返した]
[添えられた右手を中心にして、薄い青色の着物にじわりと紅い色が滲む。
一たび、目を細め]
本心が理解できない、か。
わたしが芸術家ででもあったら、芸術は理解されないものだ、とでも言えたんだろうけど。
飴屋だとどう言い様もないなぁ。
[その口調は尚変わる事がなく。一瞬の間。程近い、曇ったような相手の表情を見つめ返し]
――いいよ。
[短い沈黙と同様、短い返事を口にして]
君がしたくないわけでないのなら、ね。
そうだよ。
[肯定にはどのような意味が込められていたか]
礼を言う必要なんてないよ。
全てはわたしがしたいと思ってした事、なんだから。
……そうだなぁ。
手紙で呼びつけられた時から予感はしていたんだ。
それでもこうしてきたのだし。
[ぽつりぽつりと、考えながらのようにゆっくり語る。少しだけ、間があって]
フユキ君は、窯神様が嫌いだと言ったねー。
……わたしも、嫌いだったんだよ。
かみさまも、儀式も、父さんも、みんな……
でも。
「人狼」だけは、嫌いじゃなかった。
[伝えたかったのか、ただなんとなく言葉が出ただけか。独り言のように零した。
おやすみなさい、というフユキの声が落ち]
……あ、
[一瞬、僅かに目を見開く。漏れる微かな声。貫かれる心臓]
……、
[口を何度か小さく開閉させるが、そこからは掠れたような空気の音しか漏れず。少し眉を下げてから、言葉の代わりとするように仄かな笑みを浮かべ]
……
[青に赤が広がるのと比例し、体から力が抜けていく。
瞳から光が失われる。
着物から飴が幾つか床に落ち]