[西日の射し込む音楽室。
ロケーション的には悪くない、絵にはなるだろう。
だけど]
こんな暑い中、自主練とかやってらんな……!
そうでなくたって、今日はお祭りなんだし、もう帰ろー!
[一緒に練習していた部活仲間に訴えたら、向こうもお祭りに行きたかったらしい。
また明日ね、と言う事で、話はついた]
ん、じゃーね、また明日ー!
[部屋を片付け、戸締りをして。
ディパックを背に、腕にバイオリンケースを抱えて急ぎ足。
家に帰る時間も惜しくて、祭り会場へ向けて直行した。**]
エッちゃんは祭りで何たべるんだ?俺っちがエッちゃんに何かおごってやっても、いいんだぜ!
へへっ、なんてったって、エッちゃんはかわいいからなっ。トクベツってやつだ!
[悪戯ガキんちょないつもの空気しか出せないが、それでも本人的には精一杯ませたようにエツコに言ってやるのだ。
がま口財布もきっと精一杯だろう。]
[エビコと向かう道の向こう
もうすぐ辿り着く神社のあたりの空をなんとなく見上げて]
きつねぐもだなー。そういやばあちゃんは、きつねぐもがなんだって言ってたっけか?
[『きつねぐも』の話はばあちゃんに口うるさく聞かされたりしたものだが……真面目に聞いていないガキんちょだ。はて、ばあちゃんはなんて言っていただろうか**]
[ぱたぱたと駆けて行く。
一度帰って浴衣に着替えてくる、とかすれば、可愛げの一つも出るのだろうけど、そんな風には頭は回らない。
今、頭にあるのは、祭りの空気に触れたいっていう、それだけで]
……あ。
[急ぎ駆けていた歩みがふっと止まる。
理由は、何気に見上げた空にかかる雲のせい]
なんだっけ、あれ……。
[祖父だか祖母だかが言っていた名前は、確か]
……きつねぐも?
[浮かんだそれを復唱する頃には、祭りはもう目の前。
意識はすぐに、空のくもからそちらへに向かう]
[暮れゆく空に浮かぶその雲の名は諦めて、袖の中でちゃりりと小銭を鳴らす。
楽しみだ、でも自分はもう酒さえ飲める歳。
十何年も前の過ちはもう流石にしないし、する訳にはいかない、なんて一人笑う。]
かき氷の食い過ぎで腹下し…
あん時ゃガキだったな。
[その分、祖母の腰はシャンとしていたし、今よりずっと元気だった。
今では随分老け込んで、今日も病院に行く>>15と言っていた、筈だ。
それでも「あんたは楽しんどいで」なんて言えるのだからまだまだ元気な方だ、と思う。]
ばあちゃんも誘えばよかったかなあ。
あー、や、じいちゃんと行くっつってたか。
[まあともかく、そろそろ出店に品が並び始める頃だろうか?]
[あれが狐雲だよ。
そんな言葉を聞いたがあんな形だったろうか。
昔に一度見ただけなので思い出せない。
]
……。
綺麗な夕焼け。
[雲とは全く無関係な感想が口をついて出る]
[祭りに向かう人の群れの中、一瞬だけ、荷物を持ったまま来た事を後悔したけど]
今から引き返すのもなあ……。
[そんな思いがあるから、そのまま、屋台の並ぶ通りに飛び込んで]
えーっと、ラムネ屋さんはー……。
[最初に探すのは、祭りの時の個人的定番]
[しかし気になるのは、雲よりも祭りの出店。
いつしか意識は空よりも下の方へと]
引っ越す前はお祭りなんて見たことないから
ずっと楽しみだったんだよねー♪
[自然と笑みがこぼれる]
[人間が歩く
犬も歩く
人間が話す
犬は吠える
赤茶色の髪が
茶色の毛並みが
夕日に染まる
神社に向かって1人と一匹が歩く
それは変わらない光景]
こんな暑さだってのに、何で毎年毎年豚汁とカレーなんだろうね。
うちの先生も文句言ってたよ。
[神社の片隅、婦人会テントの下で、持ってきた野菜を取り出しながら笑う。
ネギヤが指した空を見上げて]
ああ、今年も出てるのか。
ネギちゃん、あんた気をつけなよ。
[そこに浮かぶは*狐雲*]
[鳥居の外から境内へ、まずは何から見ようか。]
お、おっちゃん、焼きそば一つとビールも。
……あ、まだか。ども、また来ます。
[吟味するより匂いに惹かれ近寄ったのは焼きそばの屋台。
生憎まだ売っていなかったが、まずはあれからにしようと決めた。]