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─ 屋上 ─
おや、先客が居たんだね…
[紫煙を燻らせながら、ゆるりと柵にもたれ掛かって居る女性を見つけ彼女は微笑んだ。]
病院とはどうも堅っ苦しくてしょうがないねぇ…煙草ぐらい好きに吸わせてくれればいいのに…
[彼女は誰に言うでもなく、一人呟くように。そして煙草入れから一本取り出すとゆっくりと火を付けた。]
ああ、堪らないねぇ…
[煙草は医者に止められていた。それもその筈、彼女は昨年の夏に片肺を摘出していたのである。
__病名は、肺癌。
それ以来、彼女は一切の喫煙を禁止されている。…いや、正確には禁止されていた。]
まあ、今更後悔なんざしちゃいないがね…
[自嘲とも取れる笑みを浮かべながら、彼女はゆっくりと紫煙を*燻らせた*]
[…そういえば、こうして海を眺めるなんて、いつ以来だったろうか。一二三は潮風に吹かれながら、ぼうっと思い出す。
しかしどう頭を捻っても、思い出されることは仕事、仕事、仕事。それも取引先に頭を下げる、嫌な思い出だけしか蘇ってこなかった。]
…ははっ、なんてこったい…意外にあたしの人生って、薄っぺらいんだね…
[一二三はくっくっ、と口の端から煙と共に息を吐き出し、眼前に広がる海原を*見渡した*]
[ふと、先客の足元に転がる吸殻に目が向かう。それは然程吸われてはいなかった。]
……。
(…これはお邪魔したかねぇ。)
[ 一二三は少し申し訳なさそうに目線を下げる。
先客の女性はこの病院の住人かどうかまでは分からない。しかし一服の時間を奪ってしまったのは事実だった。
一二三は少し罰の悪そうに、燻らす煙草を携帯灰皿に押し付け、病室へと*戻って行った*]
(…歌…?)
[一二三は開いた窓から流れ込む歌声に耳を傾ける。誰のものかは分からない。でもどこか心に染みる、優しい歌声であった。]
(…良い…声じゃないか…ふふっ…)
[出歩くことが自由とはいえ、彼女に許された範囲は病院という檻の中のみであった。
直ぐに興味という興味は消費し尽くされてしまう。
変わりのない日々に、しかし緩やかに死に向かいつつある日々に、一二三はうんざりしていた。]
( ああ、もうこんな時間なんだね…)
[いつの間に寝ていたのであろうか、一二三は窓の隙間から流れ込む寒気に目を覚ます。
先の歌声が心地良かったのだろう。またカーテン越しの陽の光もまた眠気を誘ったのだった。]
(ふふ…こうしてうたた寝をするだなんて、随分と久し振りだねぇ…)
[一二三の経営する会社は、所謂中堅どころ…といったものだった。従業員は全部で13名。全員が長く一二三の下で働いている。結婚していない彼女にとって、従業員は家族であり子供であった。]
(…皆、どうしているかねぇ…)
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