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約束。
…と口にした舌の根も乾かぬうちに、
自らの死後の話は軽々に出来んぞ?
…だが、どうせなら、
壮絶な奪い合いの末に勝ちとって貰いたいものだ。
[言いながらもイェンニへ瞼で頷いてみせる。
傍らで彼女がじわり広げる期待という名の夢を、
蛇遣いは聴く。如何にゆがむとも操れぬひとの意志。
やがて辿りついたテントの前で、共に容疑を受けた
他の面々と重く頷くに似た挨拶を交わし――衆目の
無言の求めに応じ下される、長老の沙汰を待った。]
[沙汰を迫りに訪ねた、長老のもと。
テントの隅に在る、車椅子の青年をひたと見遣る。
蛇遣いは、何か口を開こうとしたが――不意に、
マティアスがひとときテントを離れる旨申し出る。]
…、ああ。早く戻れよ?人手はおそらく入用だ。
[機を逸する態で彼のために入口の幕を持ち上げ、
また戻そうとした折…蛇使いの首元で、相棒たる
しろい大蛇が毛皮の下でごそりと大きく身動いた。]
――…む。おい、どうした…
[低く異変を問う声音は、或いは一目瞭然な大蛇の
うねりはテントへ集うもの等へも伝わっただろう。
当の蛇遣いは、毛皮越しに大蛇へと片手を添えて…
マティアスが出て行ったばかりの外方を、見遣る。]
…あれは耳聡い…
何かに気づいたか。
[ぐると振り返って、テントの中へ居る面々を
確認する。微かに眉を顰めながら追って天幕を出、]
見てくる。…来れる者は、頼む。
[言い置くに、妹分へは眼が"来い"といざなう。]
… ッ…
よりによって…!
[…よりによって。
聴く者へ如何に響くとも、口にせずにいられない。
緩慢な歩を進めるマティアスの脇を大股で抜ける。]
カウコ!
よせ、一旦でいい、よせ!!
[ナイフをビャルネの身へ埋め続けるカウコの懐へ
肩を割り込ませ…非力ながらにぐいと全身で彼らを
引き剥がすようにと激しく押しやる力をかけた。]
ビャルネ… 白髪頭!
[鋭く。失血の寒さに震える彼を呼ぶ。]
そちらへ転がるのか。
「あたし」は 望まないぞ。
[服越しの刺創、あらぬ方向へ曲がる三つ折れの腕。
雪上へ染みた赤黒さは、遠からぬ死を予感させる。
蛇遣いは、這うように手を伸ばしてビャルネの杖を
引寄せる。見えるようにぎしりと握る。飾りの音。]
あたしは――こわくない、ことにする。 だから。
[じゃらり、凶兆でない常の極光を思わせる珠の
螺旋がビャルネの――場に在る者の視界で揺れる。]
…示せるなら、示せ。
生きたあんたが、必要だ。
とどめなど、やらぬ。
[狼は依然――動かない。
動くとしたら、動かす者は*他に居る*]
[藻掻くほどのちからも失ったビャルネの右腕が
誰の何へと反応したものか――ぴくりと動いた。
彼のひくつく指先が、虚空をさまよい赤を落とす。
或いは、ただかき集めようとしたのかもしれない。
流れ出すいのち、やらぬと宣されたとどめ、望み。
然しその指は、宙へ何か文字を記そうとする態とも、
その場にいる何者かを指さそうとする態ともとれて]
――…
[蛇遣いは、賭けの結果を見出そうとする面持ち。]
手遅れ。 そうかもしれん。
だが、――村もそうかね? 違うだろ。
[呆と言うカウコへは肩越しの応答。ビャルネの
折れ砕けた腕を握り、意識を保たせようとする。]
…レイヨ、ビャルネに―― 否、
[車椅子を軋ませる青年の名を呼びかけ…やめる。
彼の家、卓へ薬草扱うらしき設えは見ていたけれど]
ウルスラ先生、居るかね?
気つけ薬か何かを――――
あ、ッ…
[背に受けた、イェンニの恨みがましい視線には
気付かずも―――確信と必要を持って長引かせた
断末魔とその赤は不満をそのままにさせたろうか。
もはや骸となったビャルネに詫びて触れるレイヨの
横顔をしばらく眺めていて…やがて吐息を漏らし]
戻ることが必要なら…そうするといい。
[運ぶ手助けに関しては、黙して被りを振る。
必要なのはこの場で雪を掘って埋める人手であり、
レイヨがその作業に適しているとは思えずに――]
…どうだろうかな。
機会をお前から奪わずにいたかったのは、確かだ。
[ビャルネの肺から抜けきらぬあたたかい空気が、
かぱ、ぐぱ、とまだ喉の刺創を泡立たせている。
しばらく見詰めていたが…イェンニを振り返り、]
彼――… カウコかね。それともビャルネ?
[尋ねながら、両方だろうかとも含む。
妹分の後ろへ獣医たるウルスラを見つけて眉を下げ]
…先生。
ビャルネは妙なことを言ってはいたが――
――うむ。
イェンニにそう告げたと…あたしもあの後聞いた。
[潔白。まじないかどうかも知れぬそれ。
イェンニの言をついで、ウルスラへも伝える。
"あの後"、は彼女と自身、
そしてビャルネの三人で話した後を示していて]
どう思う、先生。
あまり口にせぬ方がよいかね…
或いはまじない師が死んだかもしれん、とは。
…村の中まで狼がうろつきだすと、
家から出られず孤立する者が出てしまうぞ。
ドロテアの代わり――と言ってやるな。
長老さまも仰っていたろう、代わりはいないと。
[老爺の唯一の慰めだろう言を思い起こしながら、
イェンニを窘める。血を舐める所作は窘めぬけれど]
…カウコに、か。
ビャルネが殺されたのは…あたしの所為だろうな。
[胸裡へ確かめるよう、零す。ビャルネの杖を持ち]
あたしはカウコへ、あたしを潔白だと
言ってくれてる者が居るとは言ったが…
ビャルネがそうだとは、教えなかったんだ。
[偽りなき感慨のままに、白蛇に触れつぶやく。
冷える屋外――それはまた動かなくなっている。]
まじない師の可能性を見ていたら、
カウコは白髪頭を殺さなかったかもしれん。
その"ひとつだけ"は…ああ。
一緒に聞いた。
[狼使いに味方する者、その一人の存在。
蛇遣いが、ウルスラと共有すると知る情報。]
あれについては、口外してないがね。
恐怖にかられた皆が、自分こそその「一人」だと
思い込んでしまうときが…恐ろしいからな。
[詳細は口に出さぬまま、ウルスラの瞳へ視線あて
彼女の見解が知りたいと求める態で目配せをした。]
否、…
ビャルネが言っていた「白」は
あたしだな。――"トゥーリッキ"。
[ウルスラの確認へは、つと自らを示し訂正を。
この地に住まいする折に、長老が伝承から取って
名付けした――――蛇使いのこの地での呼び名。]
それをイェンニが聞いたのさ。
他に聞いたやつがいるかどうかは…わからん。
…そう、言いふらせないからな。
だが先刻… ビャルネに他を尋ねようとして
促したから、他へ勘づかれてる可能性もある。
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