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…おかしいな。
[袖をめくり上げて撫でる左手首には、淡い色の部分がバンド状に残る。]
腕時計を、していたはずなんだ。
腕時計どころか…何処にも時計が…。
[必要が無い、と声はささやく。]
…隠したい、のかい?
[いすから立ち上がる彼へと返す声は無い。]
>>153
テンマ、つめたかった。
[自分の右てのひらを見下ろして、瞳を伏せる]
時は……。
[ときは人が作るもの。
呟く声はごくごく小さい]
冷たかったんだ……。
[幽霊であるとすれば、触れられるだけでも幸いであろうか。
先の言葉にはそれしか返すことができず]
……そしたら。
また新しい時を……私たちに作れってこと……?
あのお墓も、私たちみたいに「手向ける」ことを、
繰り返してきたのかな?
本当に何も教えないつもりかね。
そうだろう、君は。
私に記憶が戻らないように、と、考えている……
過去の全てを隠してしまおう、と。
「そんな事はありませんよ」
なら何故何も答えないのだね?
自然に思い出すのを待っている、などとは言わないだろう?
……、
[問い詰めるような口調。ふ、と息を吐き]
すまない。少々熱くなった。
>>156
繰り返し、繰り返し、何を、誰に手向ける?
[カナメは答えなかった問いを口にしてから、新たな疑問を付け加える。
ただし、それは語尾の上がらない形]
何のため。
考えても仕方ないな。
………愛しのお姫様を助けに行くか。
[閉じていた瞳を見開き、首をふるふる振って。ふらり、立ち上がってから、虚空に語る。]
カナメよ、俺はお前の言いなりにはならない。
俺は、俺の選んだ道を行く。
それが我道。覚えておけ。
だが、何一つとしてわからないままでは……
おかしくなってしまいそうだ。
[おかしくなる?
いいえ、貴方は――]
[途切れるカナメの声。暫し待っても言葉は続かず]
……? ……まあ、いい。
君は……私に役目を伝えただろう。
それを果たす事で記憶が戻ったりはしないのかね?
「可能性はありますね」
また曖昧な事を。
[ふう、と溜息を吐きながら肩を竦め]
もう一つ確認するが……
……私の役目は、本当に正しいものなのかね?
「と、いいますと?」
間違った役目では、ないのかね。
手向ける。
だが…何のために?
[部屋を出、あの赤い花を目指す。]
アン。彼女は…手向けられた?
それとも…
[廊下に響く、サンダルの靴音。]
「そんな事はありません。
確かに正しいものですよ」
本当かね?
[ええ、と肯定するカナメに黙り込む。何度重ねても同じように上滑りする問答。立ち上がり、部屋の外に出て]
>>162
悲しい?
[言葉を飲み込むミナツの表情を見つめていたが、ゆっくり瞬きをしながら空を見上げる]
“空”はこんなに、小さくない。
[言って、見上げた格好のまま瞳を閉じた。
人工の風が頬を撫でてゆく]
[公園を小さく切り取ったようなビオトープ。
日差し降り注ぐ下には、二人の少女。
少し離れた場所から、ぼんやりとそれを眺める。]
彼女も…僕のクランケだったとしたら。
[白衣に染み付いた香りを、知っていると告げた少女。]
彼女はちゃんと、僕のところから巣立ったんだろうか?
それとも…
なぁ、カナメ。
感情と記憶が結びつかないんだ。
漠然とした事実と、奥底に残った思いと…
それがうまくつながらないのは、意識がまだ剥離しているから?それとも、記憶統合野に障害か?
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