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ほんとうに村が永らえるために
その身を捧げてくれたのなら――
何故、毒を喰らっておかなかった?
[相手に口を開かせぬ――
否、顎骨まで開かせた儘の、詮無い問いかけ。]
あたしには、わからんのだよ。
『 ……お気の毒様。 』…
ドロテアの、あの台詞>>0:43がな。
[自らの血泡へ溺れかける態のカウコの口腔から、
樫の瘤で補強された靴先を抜いて――雪で拭う。
匂いは後にウルスラの血溜まりを通れば紛れるもの]
…寒そうだ、カウコ。
お前にも伝染(うつ)ってしまったろうか――
[ひときわ大きな体躯のおおかみが進み出て、
遣い手はその背へと慣れた仕草で腰を下ろす。]
…最後に酌み交わした酒、…旨かった。
[ふわり 靴先は浮いて――胸裡にある儘を。
告げる別れに、確たる感謝も詫びもない。
たった数歩の人形の足跡は、狼の群れがこれから
食餌の間に踏み消してなくなってしまうだろう。]
[紅い極光に、透けて見える大きな月影。
そこを横切るように、遣い手を乗せた狼が跳ぶ。
降りる雪を薙いで、ビャルネの飾り杖を一閃。
地へつかず水平に振られた杖は…音を立てない。]
今でも、――"あたたまっているよ"。
[…それを合図に、森へ潜んでいた無数の狼たちが、
地へ這わされたカウコへと一斉に爪牙を以て群がる。
残す言に反して、ぐず、と鼻先の音は風に*攫われ*]
―― 回想/村外れの森 終了 ――
[ドロテアの幼馴染たる村娘から、レイヨが人手を
借りに赴いたらしいとは耳にするものの――――
車椅子の青年は誰も手助けを連れては来なかった。
何を訊く前に、蛇遣いは村の者に頼み、小さな
手曳きの橇を借受け、包んだウルスラを載せた。]
…誰を訪ねたのか知らぬが…レイヨ。
死んでいた、とでも言うつもりかね。
[横殴りになりはじめる風雪を浴びながら薮睨み。]
否、…話があるなら後にするか、同道しろ。
[蛇遣いは、首元へ戻した白蛇をまた温める態で
毛皮の下へ包み―――ぐ、と深くフードを被る。
手曳き橇のロープを掴み、負い曳くに滑りは軽い。
みるみる嵩を増す積雪の表面がやわらかくならぬ
内にと蛇遣いは眉根を寄せて奥歯を噛み骸を運ぶ。]
…っ …
[やがてウルスラの住まい、寝台の上へ苦労して
獣医を横たえる頃にはすっかり息が上がっていた。]
[一度身震いをして、ぐし、と鼻のあたまを擦る。
憮然とした面持ちの蛇遣いは何かを探す態で室内を
見回し――獣医の記帳机にあった紙を手に取った。]
…耳印、オラヴィ。低体温…
…耳印、ヘイノ。低体温、酷い涙目…
…耳印、ヘイノ。低体温…
…耳印、ヴァルテリ。低体温、過眠症…
…耳印、ユノラフ。低体温…
[読み上げるそれには、ウルスラが診ていた馴鹿の
症状と持主―耳の切目にて知れる―が*並ぶ*。]
ウルスラ先生、…やっぱり…
[ウルスラの骸引く橇に、手伝いをと差し出される
レイヨの手へは――す、とビャルネの杖を渡した。
引手の弱さにふらつきがちな橇の軌道は、車椅子の
青年が後ろからその杖で進みゆく傾きを調整すれば
蛇遣いがひとりで引くよりも安定していただろう。]
…
[ウルスラの小屋にて…物言わぬ彼女のしかばねを
横たえた部屋にて。蛇遣いは、レイヨが歯噛みする
微かな音を聴く。憮然とした面持ちは変わらない。]
… ひとが、トナカイに。
病を伝染(うつ)しているのだ。
[「やっぱり」。続きを問う相手への応えは短い。
レイヨは反応でなく、新たな、そして思いがけぬ
死者のあることを告げた。蛇遣いは僅か目を瞠る。]
…? ヘイノの奴が、…死んでただと?
[集められた当初、ヘイノとの遣取りが周囲の目に
どう映ったか当人はしらず。ただ、寒がり同士の
応酬に蛇遣いがにこりともしなかったのは確かだ。
今は完全に気を取られるとはなくも、紛れもない
驚きを隠さずに眉根を寄せる。一度押し黙り――]
夕刻に会ってきたばかりだぞ? いったい…
…「殺されていた」わけではない、のか…
[他にもとレイヨが呈する可能性へは応えず。
蛇使いの指先は、机に置いたウルスラの記録を
ゆっくりと辿った。病気のトナカイの持ち主に
散見されるのは――誰あろう、ヘイノの名。
よくトナカイの傍に居て、絶えず撫でる男の。
毛皮を幾重にも着込み、寒い寒いと言う男の。]
――…
[険しくする面持ちの儘…レイヨを見遣った*]
[『癒すべきは…――』
消え入る声の続きを、蛇遣いは引き取らない。
死因はヘイノを見つけたレイヨにわからないのなら、
まだ見ていない蛇遣いに確とわかる道理もなくて。
ただ目の前に在る記録と自身が知ることを照らし
病でなければ安心するとだけ曖昧に添えて置いた。]
…まじない師… あれがかね?
なるほど、それで――『初めからいらないし』か。
[ドロテアへ「この世に不必要なものなんてない」と
声をかけておいて、自らは守りの菓子をいらないと
吐き捨てた夜警の様子>>1:22を思い起こしつつ零す]
…聞きたくない報せばかり、耳に入る。
[独り言めいて吐息を落とすと、場を離れるらしき
レイヨの言にそうだなと頷く。自らも、凭れていた
机から身を離してもう一度ウルスラを視線で撫で…]
あたしは、イェンニのところへ。
[病の件を問われると、…ぐず、と鼻先へ啜る音を
立てる。それが応え。飾り杖を確と受け取って――]
若先生。
互いに、殺す機をはかるなら今だと思うよ。
[大蛇のとぐろで盛り上がった首周りへ、
顎先を埋めながらレイヨを見遣ったとき――
片手で開けた扉の外から、>>73
遠くなにものかの咆哮が上がるのが*聞こえた*]
あんたは、「変わらない」のだったな。
――さて… どうしたものかね…
[開いた扉から聞こえた咆哮は、同じひとの耳持つ
レイヨに聞こえたか否か。感慨を浮かべて外を一度
見遣ったが――告げられる詫びへと緩く振り返る。]
詫びも聞きたくはないが、
耳に入ってしまったものは仕方がないな?
[彼の小屋へ招かれたときのように、
戸口の覆いを捲り上げて、レイヨの車椅子を通す。]
うむ、あたしに奪わせたくないなら――
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