[聞き耳を立てて得た、姉と自警団員の会話に、新たな犠牲者の名前を知る。]
――そ、んな…
[言葉を失いつつ、ふと何かに気付いたように、急ぎ足で音を立てずに戻る部屋へ幽かに掠める衣擦れの音。]
せんせい、行っちゃうのね。
[医者が出向く。そして彼が戻る頃。
少女の安否が疑惑から確定に変わる。]
[ふと周りを見渡せば、都会からやってきたという編集者の男の姿が見えた]
グリタさん、でしたっけ?どうなさいました?
[グリタの部屋の方へと向かい、部屋を覗き込んだ]
そういえばグリタさん、どうしてわざわざこんな村までいらっしゃったんですか?
[笑顔を作って、グリタに話しかける。客商売なので笑顔は手馴れたものではあるが、若干口の端は引きつっているようだ]
この村で、今までこんな騒ぎ起こった事は記憶にないんですよ。本当に人狼とやらがいるのなら、外からやってきたんじゃないか、そんな気がするんですよ…
[そういって、じっとグリタを見つめた**]
[ふと視線の先に止める、水の張られた入れ物を覗き込む。
昨夜、部屋に持ち込んだ刻には、まだ仄温かかった液体は、昨夜と変わらず澄んだ水底から自分自身を覗き込んでいた。]
だからと言ってこれを証明出来る術がわたしには…
[自警団は告げていた。疑わしい者を差し出せと。
では、疑わしくない者を先に見つけ出し尽くせば。
しかし――]
もし、信用を得たとしても。
闇雲に素性を明かした所で、隠れ蓑にならない方の安否だって…わたしには――
[おぼこい思考ですら解り切ったこと。
誰に打ち明けられようか。]
誰かに…
[呟いて、部屋を出る。
3度の食事の支度は気丈に振る舞う姉と共に行った。
昨夜、照れ隠しに背中で受け止めた男達の軽口が、今はとても懐かしくさえ感じる。]
誰かに――…
[留まる人々を次々盗み見てはまだ、声をかけるものも見つからず*]
[壁時計が十一時を告げるのとほぼ同時に、畏敬弾が催促にやってきた。
ごくりと生唾を飲む。
玄関で応対する若女将は、眉根を寄せて低い声で自警団員へ問いかけた]
話し合いの結果ではなく、自分で挙手するのは可能ですか?
─ 自室 ─
どうしてこの村に、と?
[村の男──昨夜他の者に「ゼンジ」と呼ばれていたような記憶がある──に問いかけられる。]
親父とお袋が、この村の出でしてね。私が身体を壊してしまったもので、転地療養って事で、親父の実家に世話になりに来たのですよ。
[自分はさぞかし怪しく見えるのだろうな、
探るかのようなゼンジの視線を見返しながらそう思う。]
[誰かを、容疑者として自警団に差し出さなければならない]
ああ――
[頭を抱える。見知った者たちの中にいるとは思いたくない。
だからと言って、選ばなければ皆が――]
お茶、飲みたいわね。
[一日ろくに物を口にしていない。
何でもいいから早く、そんなことしか言わない団員にため息をついて見せる。
振り返ると、そこにいたのはバクで]
夜遊びしてると怒られるわよ。
[冗談めかして微笑んだ]
キャラメルなら、あるけど。
[なんでもいいからなどと言う自警団に、なんでもいいから投げつけてやりたいがキャラメルはもったいないので我慢する]
さっきのどういう……
[問い直そうとした言葉は、微笑みに遮られる*]
夜遊びして怒られるような歳じゃないよ。
俺、お茶、いれようか? お茶屋の旦那みたいにはいかないけどさ。
――…。
[震える手で診察鞄を開け、薬品のアンプルと注射器を取り出す]
…せめて、怖い思いをしないで済むように。
自警団の元に向かう人に、これをー―。
[それは、麻酔薬として使われている、モルヒネ。過剰摂取すれば、幻覚を見る――麻薬。
医師はそれを手に、玄関へと向かった**]
[自警団の靴音が、悪魔の訪問に思える。
時間なんて止まればいい。
そう、思いながら姉から少し距離を置いていると聞こえる(>>19)耳を疑う言葉に]
お姉ちゃま! まって! 駄目よそんなことっ!!
[一息先にたどり着いていた少年に微笑む姉に、縋り付いた。]
自警団のお歴々、ですかな。
……しかし、親父からもお袋からも、この村にそんなのがいるとかいう話は聞いた事がなかったんですがねぇ。
──自警団じゃありませんよ。
[ゼンジに促されて、玄関に向かう。]
ええ、お願い。
[バクを台所へと向かわせてから、ツキハナの手を両手で包む]
困ったわねぇ……
でも、このままだときっと、誰かれ構わず連れて行かれるわよ。
お姉ちゃま…
[駆け寄った姉の手は温かく。そして冷たい。
嗚呼、こんなことなら何故真っ先に姉を信じて、無実を証明しなかったのか。
悔やまれる]
誰かが犠牲になるなら…
わたくしが姉の代わりになりますわ。
姉には大切な人がいる。
なら、わたくしなら文句は、ないでしょう?
[自警団に詰め寄るように*]