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―― オ知ラセシシシシ ――
[大音量のラジオが時報を繰り返す。
さっきから同じ時刻のような気さえした]
『繰り返してる』
[無意識の思いを見ないようにして歯を食いしばる。詔は導くことを己はよく知っている。撃たれた右腕、自分の体液でぬれた手を杭に添える。肌の焼ける様な音、熱]
いいから『そいつ』を寄こせ!
[有象無象の記憶たちを蹴散らすように叫び――
杭を中心に広がった光に突き飛ばされるように、地面を転がった]
[不浄を討つ――知らない。
杭の名前――知らない。
神の名?――知るもんか。
うるしにかぶれるだとか。
正しい時を刻むだとか。
神に捧げる体だとか。
ヴェールをかぶった眠り姫だとか!
“きょうかい”だとか!!]
……。
[地面をいくらか転がって]
―― 5時55分**秒をお知らせします ――
[その声を聞いた]
[サイレンの、音]
――っ!
[否、それは堕ちたる神の呼び声。
両手で耳を塞ぐことなど、まるで役に立たぬ大音量で脳に刺さる]
[絶叫、は――
警官の体を借りるように。ただその身を折って]
[はらり。手紙が地面に落ちる頃、ゆらりと身を起こした]
[昭和86年9月 都内 某所]
[残暑厳しくも、冷房はゆるくそよぐ風は変わらず。
一角に置かれた机に広げられたノートもまた、
持ち主不在のまま、同じ場所に居住まう]
[緩くうねる風に、ノートがまた一枚、
音も無く捲れる。
几帳面な性格が窺われる文字が、
無駄な隙間もなく列ねられた片隅にもまた、
奇妙な文字がいくつも並んでいた。]
『 銀水 』
[廻る記憶は…。
乃木は、胸に刺さる杭に両手をかけた。]
…を… ”これ” *、
[杭から溢れ出した浄化の光は、ズイハラの前に、まるで『手に取れ』とばかりに集まる。一方、乃木の身体は『魔切り』の影響でか、痙攣を繰り返しているようだ。]
[訴えかけるような光の集まりに、右の手を伸ばす]
――。
[小さな、声で、つぶやいた。
光は指に絡み、腕に絡み、弾痕から体内にしみて]
……ノギ警官。
[けいれんする体。何か紡ごうとする唇。
どさりと膝をついて、杭をつかむ手に、己の右手を重ねる]
俺に、その「想い」をよこせ。
俺は「よそ者」だから。
[だから、また]
そんな、気がする。
[なんども、なんどでも]
……?
[『うしろのしょうめん だあれ?』]
[ふと舞い上がる記憶の声につられて、後ろを振り返った]
[女は、生きていた。
謎の生き物に捕まり、肩と脚と腹部から血を流すことになってもなお]
……ふ、もっとあっけないものかと――――…。
[眼鏡を通さない眼で、白みゆく空を眺める。
銀の懐中時計は、片手に持ったまま。顔の前に持ってこようとして、力を失いつつある手から、ぽろり、滑り、落ちた]
…………。
[思い出す。いつかの]
[屍人としての身体は、周囲情景を恍惚とした物と感じさせる。
『他者にも』この楽しさや幸福を分け与えたいが故に、此方の世界に引き込もう《相手を殺そう》とする。]
”・・・ ・・・”
[これで。
赤涙の流れる双眸が、ズイハラを見る。]
『…任せ…』
[視界ジャック。ズイハラの後方から視える何かが。]
[乃木の身体が、蒼白い炎に包まれた。其の炎がズイハラを焼く事はない。]
[些細な出来事。
前に、相棒がこっそり、女の腕時計を3分遅らせていたことがあった。
これなら3分遅刻しても、女の時計上では待ち合わせ時間ちょうどを指しているから、遅れたことにはならないと屁理屈をこねて]
時計を遅らせれば、―――、なかったことに――る?
「ならないよ。」
[その時、女に応えた相棒の声が、「いつの」ものなのか、
知る術は、ない**]
[現れた女の姿に、男はゆらりと振り向いて、首を傾けた。身を撃ち抜かれる前に対峙していた、人外の存在。彼女に対して緊張や恐怖や嫌悪を抱く事は、最早ない。赤い涙を流しながら、笑むばかりで]
……ぁあ、……
記事。……書かないと……
[僅かに首を縦に振る。それが頷きだったのかどうかは、判然としなかっただろう。赤い水溜りを踏みながら、男は蹌踉と歩き出す。
ジャケットのポケットの内で、デジタルカメラが、死に掛けた蝉の鳴き声のような音を立てながら、稼働していた。水に浸かり切って、本来ならばけして動く事はないだろうそれが。静かに、煩く、]
……ぁ? ……
[幾らか歩いてから、男はその存在に気が付き、緩慢にポケットからそれを取り出して]
……
[ぼんやりと。真にぼんやりと、カメラの裏側の液晶を眺める。其処には男が撮った写真がスライドショーのように映し出されていっていた。
同僚である編集者とカメラマン――もといカメラウーマンの姿。四辻村へと至る山道。四辻村の入り口。立ち並ぶ民家。赤い川。上空から見た集落。バインダーに挟まれていた、何かが書かれた紙]
……?
[首を傾げる。その動きに呼応するように、写真の変移が止まった。紙に刻まれた、象形文字のようなもの――今ならば読める、屍人が用いる文字――を、男は読んでいく。ひゅうひゅうと、呼吸音を零しながら]
ゆあみ かみ
きょうかい ほのお
つちのこ うろぼろす
ふきゅうたい
いかい かみの ち なきごえ
かぶれて
もやす やいば うけしもの
しびと は まもる
うけしものは は
まわり まわり まわり
まわり まわり
[まとまりのない、ほとんどが単語で構成された文面。それを読んだ男の内に、ふっと、何かが過ぎる。変わり切った裡の片隅で、何かの断片が、浮かび上がる]
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