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――消えた?
[ナオがその話を聞いたのは、図書室の司書さんからでした。静かな室内に声にはよく響いたものですから、唇の前に指を立てて注意されます。まだ噂に過ぎないのだから、と。]
ああ、ごめん。
[カウンターに身を乗り出し、声を顰めます。]
……それで?
水泳部の子が。ふうん。
ああ。あの子か。
可愛い名前だよね。深海魚みたいで。
や、冗談。
[淡々とした口調は興味なさそうにも聞こえたでしょうが、顔にはいつもの笑みが浮かんでいて、眼鏡の奥の瞳を真っ直ぐ相手に向けられていました。]
[薄く闇に包まれた室内は、他よりいくらかヒンヤリとしていました。新旧入り交じった紙の匂いの中にいると、どことなく違う世界にいる気分になります。
家出や無断外泊の線もあるが、目撃者がいないこと。今までそんな兆候はなく、彼女が部活を休んだ事もなかったこと。司書の女性は色々な事を話してくれました。]
そっか。
早く見つかるといいな。
……あ、本。借りていきますね。
[そう断りを入れるとカウンターを離れてました。雑多に並ぶ標題を順々に眺めながら書棚の合間を緩歩します。]
これにしようかな。
[やがてナオが手に取ったのは、*とある伝承の本でした。*]
[本を借りて図書室を後にしたナオは、ひとり、廊下を歩んでいました。
窓の外には昨日と同じ――けれどどこか異なる光景が広がっています。喧騒は一回り、小さいように思えました。]
さて。
……どうしたものやら。
[首を捻りながら、先程借りたばかりの本を開きます。
――ハラリ、何かが舞い落ちました。]
……………っと?
[屈み込んで拾い上げますと、それは真っ白な封筒でした。封はされておらず、隅っこには、宛名でしょうか差出人でしょうか、小さく小さく、“ナオ”と書かれていました。]
……僕?
[心当たりなんて、全くありません。今日この本を借りたのは、気紛れなのですから。特別珍しい名前でもないのですし、偶然かとも思いました。]
(いいや、開けちゃえ)
[けれど、ナオは好奇心に負けて、中身を見てしまったのでした。
中には二つに折り畳まれた紙が入っており、広げると、知らない誰かの名と、短い単語が書かれていました。裏を見ても陽に透かしても、他には何もありません。封筒にも。]
……変なの。
[ポツリと呟いて、ナオは封筒を鞄の中に入れました。なんとなく、本には戻さずに。
それから少し考えて、いなくなった女生徒の教室へと進み始めたのでした。]
[返って来た声は二つとも、ナオにとって聞き覚えのあるものでした。中に入ろうとしたところで、歩んで来る人影が目に入ります。]
あれ。……ええと。
雨彦くん、だっだっけ。
[ナオは水難で有名な彼に、(間違った)名前で呼びかけました。]
ん、ちょっとね。
知的好奇心……かな。
不謹慎だとは思うけれど。
[遠回りな言い方は、タカハルにも、例の噂を思い起こさせるでしょうか。]
ああ。高晴くん。ごめん、ごめん。
傘を握っているイメージが強いから。
[普段通りの笑顔の上、大して反省していない様子で返してから、ナオは教室の内へと視線を向けました。]
ああ。……ええと、昨日の。
ううん、そういう訳でもないよ。
安心するといいよ。
喧嘩する程仲が良い?と思って、見ていただけだから。
お邪魔していないか心配だったけれど。
[二人のやりとりに、ナオは口の端を上げて笑います。違う方向と聞けば、そうなんだ?と不思議そうに首を傾げて、本気にしているのかいないのか、傍目にはわからない様子です。]
ん。
来海、蛍子?
へえ。
……そっか。
面白い偶然。
[彼女の名前を繰り返して、ひとり、納得したように頷きました。]
催促状の覚えがある程、延滞してる本があるんだ?
[首を傾げながら呟き、ナオは、同級生らしい少女に抱き着く様子を眺めました。それから、コウイチの目線での問いかけに向き直ります。]
うん。これなんだけれどね。
宛先人も差出人も、どうにも不明なんだ。
“ナオ”……
ああ、僕は結城 奈央って言うんだけれど。
それだけが書かれていて、気になったから、開けた。
[封の閉じられていない中から手紙を取り出して、広げてみせます。
そこに書かれているのは、クルミの名前と、“ひと”という単語。字にこれといった特徴はなく、わざと個性を消しているかのようにも見えます。]
それで、書かれていたのは、これだけ。
そこの彼女だね。
どう思う?
さあ。僕にもそこまでには。
[タカハルの問いかけに、ナオは肩を竦め、首を左右に振りました。]
他には何も書いていないようだから。
もしかしたら、炙り出しなのかもしれないけれど。
……流石に、暑い中に、試したくはないな。
でも、
“ひと”と書いてあるということは、
“ひと”以外もいるのかな。
“ひと”に見えて、
“ひと”じゃない何かが。
なんてね。
[――それこそ、猿とか。冗談めかして、笑いました。]
僕は気楽な方だよ。
周りからは、もっと焦れ、って言われる。
[コウイチ>>73に言われて、クスクスと、まるで他人事のように笑います。
クルミへの返答は、少し、考え込むようにして、]
わかったら、苦労しないのだけれどね。
もし、これが僕宛であると仮定するなら。
偶然、僕と君とが出逢った翌日に、
偶然、僕が借りた本にこの手紙があって、
偶然、君の名前が記されていた事になる。
随分、神懸かった話だよね。
気味が悪いくらい。
[口元に手を添えながら、答えます。そう言う割りには、ナオの表情は、面白がっているようにも見えました。]
しかも、あんな噂が流れている時に――
……おっと。
別に、そういう意味で言った訳じゃないよ。
不可思議な事は重なるものだなって。
それだけ。
[無神経だったかと、ヒラヒラ手を振って、苦笑染みた表情を返しました。]
そう、そう。
年賀状でやったら、気づかれなくて。
面倒だから無地で送るなって、怒られた。
[それから、手紙を封筒に、封筒を鞄に仕舞い込むと、駆け出すクルミを見送ってから、コウイチへと視線を戻します。]
そして。
記されている事が、“真実”だとしたら。
……身体が震えるね。
さて、と。
僕も、そろそろ帰るよ。
君達も、遅くならないよう。
黄昏時は逢魔ヶ時。
夜は人ならざるものの時と言うから。
[窓の外の風景を見やりながら、ナオは、縁を押し上げて、ずれた眼鏡を直します。陽は空を廻って、やがては地平線の彼方へと沈んでゆくでしょう。]
それでは、ね。
[後輩達へと片手を上げて挨拶をすると、変わらず薄紅色の唇に弧を描いたまま、*教室を出て行きました。*
クルミの姿を見かけても、敢えて声をかけることはなく。]
[すっかりと暗くなった道、電灯を頼りに路を、ナオは本を片手に歩んでいました。日が沈んで気温が下がったとはいえ、涼しいとは言えず、温い風が頬を撫ぜてゆくのに、眼を細めました。パラパラと頁が捲れて、ある一文が目に入ります。その単語を指先でなぞって、それから、口元を押さえました。]
……ぞっとしない。
[呟く言葉と顰める眉とは裏腹に、ナオの唇は、緩やかな弧を描いていたのでした。
ふっと、顔を上げます。目の前の街灯は切れかかっていて、断続的に明滅し、その先の灯りは失せていて、頼れるのは月と星の光ばかり。周囲には薄らと、けれど深く、*闇が広がっていました。*]
[ゆっくりと歩みを進めてゆくと、夜のしじまの中に、風に乗って、いくつかの声が流れて来ました。蝶が花に――というよりは闇夜を舞う蛾が光に誘われるように、ナオは、そちらへと向かいます。何人かの影が見えました。
少し遠いところに立ち止まって耳を傾けると、内容まではよく聞こえませんが、どうやら、学生達のようでした。それも、聞き覚えのある声ばかり。]
夜の集会かな。
[危ないと言ったのに。自分の事は棚に上げて、そんな事を呟きました。
本を持った手を顎の辺りに添えると、顔は半ばまで隠れます。街灯の光を、眼鏡のレンズが反射していました。]
おや。
[上がる声に、ナオは、きょとん、と目を瞬かせました。]
驚かせてしまったかな。
[眼鏡を外しながら、ゆったりとした足取りでそちらに近づきます。]
うん。
結城 奈央。
[問いかけるような声に頷きながら本を下ろすと、手を後ろに組んで、周囲を見渡します。ちょうど、向こうからやって来る少年の言葉に、軽く笑いました。]
何部だろうね。
夜行性部?
>>181
ん。
知り合いの捜索を暇潰しなんて言われたら、
気を悪くするのではないかな。
[人の事は言えないけれど。そう小さく付け加えるのは、忘れずに。]
まあ、どこかに転がり込んでいるとするなら、
警察より、一般の人間の方が見つけやすいのは確かだね。
夜歩きそのものより、こんな時期に遊び歩くのも問題じゃないかな。
[それもまた、ナオが人の事は言えないのですが。
続いた問いかけには、んん?と首を捻りました。]
僕も心が読める訳ではないから、
もう少し、言葉を付け足してくれると助かるのだけれど。
これの事じゃないかな。
[言いながら、鞄から取り出した封筒をセイジに見せました。]
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